レヴィンがマーニャに会った数日後、恐れていたことが起きた、シレジアの時期王の座を狙い、マイオス公とダッカー公が戦いを仕掛けてきたのだ。
ラーナ王妃の恩に報いるため、シグルドは出陣を決意し、当然レヴィンも戦いに赴くことになった。


5.空に舞う(後編)■

シグルド達はシレジアの北に位置するマイオス公の住むトーヴェ城へ向かった。
そして、マーニャ率いるシレジアの天馬騎士団はもう1人の公爵・ダッカーのザクソン軍との戦いに臨んだ。
…やはり、戦いは起こってしまった。
レヴィンは帰国したことを後悔していた。出陣が決まる前に覚悟を決めたはずなのに、いざとなったら尻込みをしてしまう。
…オレとしたことが、情けないな。
自嘲気味に笑いながら、トーヴェを目指す。
もう引き返すことは出来なかった。こうなった以上は腹をくくって戦うしかない。せめて最小限の被害で済むように細心の注意を払うのみである。
マイオスは、叔父には自分で引導を渡すと心に誓い、レヴィンは走った。






















トーヴェ城はあっけなく落ちた。戦いもそう苦労することなく、レヴィンたちはそれほど大きな外傷を負うことは無かった。
この分だと、母上は大丈夫だろう、傍にはマーニャもいる。
レヴィンはそう信じて疑わなかった。
マーニャは強い。シレジア最強と詠われる天馬騎士である。皆からの信頼も厚く、ダッカーでさえ一目置く存在である。それに、シレジアには天馬の天敵である弓兵はいない。多くの犠牲を出すことなく終るだろう。


―しかし、現実は残酷な報せをもたらした。
なに、マーニャが死んだ!?・・・そ、そんなバカな!!」
彼女が負けるなんて考えられなかった。いつも優しく微笑んでいたあの笑顔が2度と見られないなんて信じたくはなかった。
「…マーニャが負けるなんてありえない!!」
レヴィンはすぐにシレジアへ向かおうとした、情報の正誤を確かめるために。
ところが、報せを持ってきた使者はことの真相を続けて話した。情報は正確であると言わんばかりに。
「申しあげにくいのですが、ダッカー公はクランベルに援軍の要請をしていたもようです。ザクソン軍にはダッカーの軍旗以外の旗がありました。その軍旗は……その……」
「ユングヴィ軍のもの…そうでしょう?」
言いにくそうに俯く使者に対して、言葉を続けたのは他でもない、ユングヴィのエーディン公女であった。いつもなら報せを聞くだけで倒れそうなことなのに、今日の公女は毅然としていた。どこかでこのようなことが起こるということを覚悟していたようであった。
ユングヴィ…その主力部隊バイゲリッターといい、弓を基本として形成された軍である。その兵達の腕は確かなもので、弓使いウルの血を引くユングヴィ家の名に恥じない精鋭ぞろいであった。
レヴィンが正誤を確かめるまでもなく、マーニャの戦死が真実であることが判明した。天馬騎士には弓からの攻撃に弱い。どれほど強い武将であっても例外はない。しかも、精鋭のバイゲリッターが相手となるとマーニャたちは壊滅状態になったことだろう。
それからしばらく、レヴィンの思考は停止していた。シグルドが何か話してかけてきたようだったが、何だったかはわからなかった。返事を求めらたようだったが曖昧に頷くことしか出来ず、気付いたらあの大きな木のある崖に立っていた。
木に登って遠くを眺めていると虚無感に襲われた。
マーニャ…本当にもう何処にもいないのか?
言いたかったことが山ほどあったのに。こうなることがわかっていれば、もっと言う事を聞いて王子としてきちんとした態度をとっていればよかった…いつも言われていた小言は嫌がっていたけど本当は嬉しかったのに。
いくら後悔しても彼女はもう戻ってくることは無かった。
それでも、レヴィンは彼女を思わずにはいられなかった。レヴィンはマーニャが好きだった。気高く美しい彼女が、時には厳しくとも、いつも優しい微笑を浮べる彼女が。何より自分のことのようにレヴィンを思ってくれる存在が嬉しかったのに。
「いつも…いつも取り返しがつかなくなってから、大切なものに気付くんだな…」
自嘲気味に言った後、レヴィンはこれからのことを考える。
そう思っていたとき、下から誰かの鳴き声が聞こえた。
「誰だ?」
「……」
問い掛けても返事は返ってこない。
木から下りてみると、前に木の上で眠っていた少女だった。
「…おまえ…たしか前にもここにいた…」
あのフリージの少女だ。そうとう泣いていたようで、目は真っ赤になって腫れていたえ。
「あ……、見たわね!!」
目が合った瞬間、少女はものすごい形相にらめつけてきた。まるで「なんで見るのよ!」と言わんばかりに。
親切心から声をかけたのに、開口一番にそう言われると気分を害する。折角声をかけてやったのにそういう態度をとるのか、と思い、レヴィンは立ち去ろうとした。
「待って!」
去ろうとした時に声をかけられた。
「前に私を部屋に運んでくれたのは貴方ね?」
振り返って肯定すると、少女はお礼を言うわけでもなく、複雑そうな顔で呟いた。
「その時何か見た?聞いた?」
消え入りそうな声で聞いてきた。
「何が?」
「何も知らないならいい…」
さっきの態度に腹が立っていたので、レヴィンは嘘をついた。
それに対する少女は寂しそうにそう呟いただけであった。
少し考えた結果、黙っているのも気が引けたので、レヴィンは思ったことを言った。
「いつも…いつも底なしに明るく笑っていて、何も考えてない悩みの無い馬鹿な奴だと思っていた」
その言葉にはっと少女は反応を返した。
「やっぱり見たんじゃない!!」
その反応がおかしくて、思わず笑ってしまった。
すると、やはり馬鹿にしているのだろうと、少女は怒り出した。
「いいわ、馬鹿にすればいいじゃない!!…でも皆には黙って」
「隠して泣いていることなんて、きっと皆わかっていると思うけど?」
「それでも!私が皆の前で落ち込むわけにはいかないのよ!事実は消えないんだから。…だったら、明るく振舞うしかないじゃない…」
威勢が良かったと思うと、いきなり落ち込んだ口調になった。
「ただのわがまま娘だと思っていたんだがな。」
「失礼ね!私だっていろいろ考えることもあるのよ」
「…いや、羨ましいのさ」
「は?」
…オレも感情をもっと出していればよかった。
マーニャはオレにシレジアを頼む、と言った。自分も力の限り手助けをするから、と。
彼女はもういない、どんなに思っても戻ってくることは無い。
少女は黙ってしまったレヴィンを怪訝そうに見ている
「解らなければいい、それより、この間の御礼の言葉はまだ聞いてないんだが」
「あ、……あの時は、ありがと」
照れ隠しなのか、すこし怒り口調で少女は言った。
「名前」
「え?」
「名前はなんていうんだ?」
「ティルテュ」
「そうか」
少女…ティルテュは名前憶えてないなんて仲間として最低だと文句を言い出した。
そんなティルテュに笑ってごまかしている時、ふと、ディルテュも他の皆もいろいろな問題を抱えているのだろうと思った。オレだけが逃げていてはいけない、
オレは、シレジアの王位を継ぐ。今までオレに望みを託してきた人達のため、母上のため、そして何よりマーニャの最期の願いを叶えるために。
レヴィンは決心する。今まで拒んでいた王子という立場を受け入れ、この国を平和に導いて行こうと。
―だから、マーニャ、安心して空から眺めていてくれ。






(空に舞う・終わり)





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後書き

5発目後編。

メインはレヴィン

きっとレヴィンはティルテュみたいな子が好きだと思う。
何でかっていうと、辛いときに隣で笑っていてくれそうだから。
レヴィンに関しては、子供代でのティニーちゃんとの会話が一番人間味が出てて好きだな〜。

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