シグルド達の願いもむなしく、シャガール王は兵を引かなかった。
仕方なく、マディノ城を制圧したシグルド達は、エルトシャンのいるシルベール城に逃亡した王の出方を待った。
親友・エルトシャンを信じて――――――――――
■4.獅子王(2)■
「シグルド、エルトは何と言ってきたんだ?」
キュアンは問う。それに対してシグルドはただ首を振るだけであった。
そう、シグルドはエルトシャンに向けて何度も使者を送っていた。しかし返事は一行に返ってこない。沈黙が守られているだけであった。
「エルトとは戦いたくないな。クランベルが引くわけにはいかないのか?」
これに対してのシグルドの反応は良くない。
「クランベルも攻められたことに対する意地があるということか。」
「・・・・・・ああ」
「解っている。私も1国の王子だ。聖騎士の称号を持つシグルドが国の威信を汚すことができないことくらいは知っている」
「キュアン・・・・」
どうしたものか、と考え込むシグルドとキュアンにラケシスが意を決して発言する。
「シグルド様、キュアン様、もし・・・万が一にも兄上が出て来たら、私と話をさせてくださいませんか?」
「ラケシス、まだ居たのか?戦いの前にも言ったけれど、君はアグストリアの人間だ。私たちを気にせず、ノディオンへ戻りなさい。」
シグルドは静かにそう言った。エルトシャンは妹を誰よりも大切に思っていた。その彼が戦場で妹と敵同士になることだけはどうしても避けなければならない。自分にもエスリンという妹の存在があるだけに、これだけはゆずれない、と思った。
「ですが、私でしたら兄上を止められるかもしれないのです。どうか」
「ダメだ。私がエルトで君がエスリンだったら、と思うと・・・これだけは聞いてもらう。君はエルトのところへ帰るんだ。ベオウルフ、彼女を頼む。今ならまだ。」
すがるラケシスに対してシグルドはきっぱり言い切る。
ふたりの言い合いは平行線をたどった。
やがて、ベオウルフはやれやれとラケシスをうながした。が、嫌がって動こうとしないので彼女を抱きかかえる形で部屋を出た。
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「離してっ!!離しなさい、ベオウルフ!!」
「それは聞けない命令だ。姫さん」
暴れるラケシスをそしらぬ顔をして運ぶベオウルフ。彼もエルトシャンを知るものの一人として仲睦まじかった兄妹を戦場で会わせることに反対であった。
ラケシスは部屋に着くと、ようやく開放された。
「どうして、貴方は私が雇っているのですよ?命令が聞けないの??」
大粒の涙を零しながらラケシスはベオウルフをにらむ。
「だから、だ。オレはあんだの護衛だからな。危ないと解っていて行かせられない。」
いつものふざけた調子ではなく、真剣な顔をしたベオウルフが言う。
「…兄を信じたい気持ちは解るが、こうなった以上、エルトシャンが出てくるのは時間の問題だ。今までは何とか守れたが、相手がクロスナイツとなると話は別だ。エルトシャンの率いるやつらは強い。例え近寄って話をするだけでも無事でいられるとは限らない。傷つくアンタをエルトシャンが見たいと思うか?」
厳しい口調の彼に、ラケシスは返す言葉を見つけられない。生きている年数の差・こなした戦場の数そういうものを考えると、彼のいうように自分がクロスナイツに向かって行って無事でいることは不可能であることは理解できた。
「守ってもらった時は頼もしかったけれど、敵になると恐ろしいのですね・・・」
ぼそり、と零れた言葉から彼女の空しさが伝わってきた。
戦いには慣れていない、自分がどれだけ大切にされているのかも痛いほどに解った。
「姫さん」
「それでも、それでもお願い、クロスナイツの中に連れて行って、とは言いません。せめて、見逃してください。・・・貴方を解雇いたします。もう護衛は結構です。ここまでありがとう。今までのように、自由な傭兵に戻ってください」
その日の夕方、ラケシスはマディノ城を出た。
彼女にいつも付添っていた護衛を伴わずに・・・・・・・・・・・
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シルベール城
「何をしていたのだ、エルトシャン!貴様がグズグズしている間にマディノまでも落されたではないか!」
アグストリア王、シャガールは焦っていた。
父王を暗殺し、手に入れた玉座であったが、クランベルとの戦いで政権を奪われてしまった。王としてのプライドがあり、またクランベルを信用することができなかった彼は、エルトシャンの進言を受け入れず、兵を起こし瞬く間に窮地に陥ってしまったのである。
「さては貴様、敵と通じて、国を滅ぼすつもりか?・・・噂によると、貴様の妹のラケシスは奴らのところに身を寄せているとか」
いつまでも出陣を渋っているエルトシャンに対し、言いがかり的なことを良いはじめるシャガール。
エルトシャンは、親友との約束をたがえることなく、国を元道理にしたかったため、王に今は我慢してくれ、と言い続けていた。
民たちは無能なシャガールよりも、有能であり、古の聖戦士達の用いた武器の一つである魔剣ミストルティンを継承したエルトシャンを王にと望んだ。そのことがシャガールのエルトシャンへ向けての態度に少なからず影響を与えていた。
シャガールは自分では嫉妬と認めてはいなかったが、人望あるエルトシャンが妬ましかったのだ。
「陛下、そこまで言われるのか!それに、ラケシスはこの件には関係ございません。」
勿論エルトシャンには王に逆らおう、という心はなかった。王に、と望まれてもそれを断固として拒否してきたし、王をないがしろにする発言をするものにも厳しかった。
何よりも、アグストリアの聖騎士であることに誇りを持っていた彼である。反逆者、と主から言われるのには耐えられなかった。
また、エルトシャンのもう一つの泣き所、妹姫ラケシスへの言いがかりも許せなかった。主の前であるので、露骨なことはできないが、『ラケシス』という言葉は確実にエルトシャンに動揺を与えた。
一瞬、エルトシャンの目付きが変った時、しめたとばかりにシャガールは攻撃をする。彼の、騎士であるという誇りの部分へ、的確に。
「なんだ、不満だというのか?父上から受けた恩も忘れて、のらりくらりと時間を稼ぐような奴に、騎士としての扱いなどできるか!それに、ラケシスは前々から私に反抗的であったな。貴様が指示していないとは言い切れないぞ!」
言ってはいけない一線。これがあるとしたら、このことを言うのであろう。
しかし、シャガールは越えてしまった。
…そして、言ってしまった言葉は取り消すことはできない。
嫌な沈黙が室内を包む。
口を開いたのはエルトシャンであった。
「もはや何を言っても無駄のようです。わかりました、シャガール陛下、我らは出撃します。私も誇りあるアグストリアの聖騎士、どうせ滅びるなら戦って滅びたい。ただ、ラケシスは本当に何も関わってございません。」
エルトシャンは決意を固めた。彼ほど忠誠心の厚い騎士はいなかったであろう。そして誰よりも誇り高い騎士であった。
「陛下、後のことはよろしくお願いします」
それだけ言うと、エルトシャンは謁見の間を後にした。
騎士として戦って死ぬことになっても悔いは無い。
唯一、心残りなのは――
「ラケシス・・・・・・」
城を出ると、既にクロスナイツはそろい、エルトシャンを待っていた。
「ついに出撃の時が来た。皆と生きて会えるのも、これが最後かもしれぬ。今までのお前達の忠義を、私は決して忘れはしないぞ。これは、祖国の存亡をかけた戦いだ、騎士らしく存分に戦ってくれ。」
そう言ってエルトシャンは一人ひとりの顔を見る。自分がノディオンの王を継いだときから供に戦ってきた騎士たちである。全員の顔と名前は憶えていた。
覚悟ができぬ者は帰っても良い、と言ったが、誰も欠けていなかった。それだけ彼は皆に慕われていた。そのことを誇りに思い、エルトシャンは最期の号令をかける。
「クロスナイツ、出撃せよ!」
(獅子王・続く)
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後書き
四発目2章。
ああ、ついに来てしまった。
次は、やっと御対面。
兄さんのセリフってカッコイイっすよね。
あ、一応言って起きますが、設定としては、
エルト兄さんにとってラケシスはあくまでも妹。
ラケシスにとって兄さんは敬愛する兄。です。
・・・何故といいますと、私がグラーニェさん好きだから。(出てこないけど)
そのうち、書いて見たい人物の1人です。
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