アグストリアを制圧し、シグルドはクランベルとアグストリアの仲を取り持つために骨を折っていた。
エルトシャンとの約束の時はもうすぐである。シグルドは1年経てば必ず政権をシャガール王に返すように準備を整えている最中であった。
しかし、アグストリアの王であるというプライドからか、シャガールはそれを良しとせず、1年まで後わずかという時に、蜂起した。
■4.獅子王(1)■
「何ですって?」
アグスティ城にて報せを聞いたラケシスは唖然とした。政権の回復までもう少しだというのに、王はシグルド達に戦いを仕掛けてきたという。彼女はアグストリアの人間であったが、先の戦いでのシグルドの援助に恩を感じ、軍に留まり、クランベルとアグストリアのために働きかけるシグルドの手助けをしていたのであった。そんなシグルドの誠実な姿を見ていたため、王の行動が暴挙としか受け取れなかった。
「なんてことを・・・・・・。」
「残念だが、戦いを仕掛けられては、応戦をしないわけにはいかない。ラケシス、君はあちら側の人間だ。こちらにいてはシャガール王に謀反の志あり、と誤解されかねない。それに怪我をしてはエルトに申し訳が無い。シルベールにいるエルトのところに・・・・・」
「・・・俺もそう思う。姫さん、悪いことは言わないからエルトシャンのところへ。今ならオレ1人でも連れて行ける。」
真っ青な顔をするラケシスに、シグルドは言う。また、彼女が先の戦いで自分の護衛を、と雇った傭兵、ベオウルフも同様にラケシスを逃がすように準備をしはじめる。
シャガールはエルトシャンを快く思っていない。確かに自分がここにいることが知られれば兄の立場が悪くなってしまうのは目に見えている。しかし、ラケシスは見て見ぬふりはできなかった。
先の戦いでの恩義もある、今までのシグルドの一生懸命な態度も見てきた。そして何より兄が親友を裏切るようなことはしない、と信じている。
「・・・待ってください、私は、引くわけにはまいりません。守られて、一人安全な所にいるわけにはいかない。足手まといにならないようにしますから、手助けをさせては頂けませんか?」
ラケシスの目には強い意思が表れていた。獅子王と詠われる兄エルトシャンと同じ、断固とした意思表示をした眼差しであった。
「ラケシス・・・・」
自分の意思を曲げない、という凛とした態度で、ラケシスはじっとシグルドを見る。後ろではあちゃーといった様子で額に手をやるベオウルフがいた。
もはや、誰が否といっても止められる様子ではなかった。
「わかった、でも危険があるようなら、必ず逃げること。私たちに構わず、エルトのところに行くんだ。」
これだけは守ってもらう。とシグルドはラケシスを見る。ラケシスもこれには承諾し、出陣の準備に向かった。
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エルト兄様、どうか陛下を思い留まらせて下さい・・・・
この戦いでシグルド達が勝つ―それはアグストリアの滅亡を意味していた。
シグルドは王が兵を引くならば、ことは穏便に済ませると言った。でも、王が戦うならば応戦は仕方ない、とも言った。
約束の時まで後わずか、国を真に思うならば、後少しだけ我慢して欲しい。とラケシスは思う。故国が無くなること、そして民が傷つく戦いをすることは避けたいものである。
「姫さん、ちょっといいか。」
自分に与えられた部屋で、机に向かい祈っていた時、ノックの音がし、声が聞こえた。どうぞ、といって振り返るとベオウルフが立っていた。
「何でしょうか?」
「あんたが、我を通すっていうのは解っていた。ここに留まるというのも予想はできた。しかし、ここに留まるということの意味が本当にわかっているのか?」
いつになく厳しい口調であった。彼はラケシスの護衛として何だかんだと世話を焼いてくれていた。口では嫌がっていても自分を裏切ったりはしない、何故だか不思議だったがそんな確信を持てる人物であった。
「解っています。私は兄上が王を止めてくださると信じています」
「エルトシャンは騎士であることに誇りを持つ人物だ。信用には値すると思う。問題はシャガール王の方だ。ヤツがエルトシャンの進言を甘んじて受けると思うか?」
痛い所をついてきますわね、とラケシスは思う。そう、ラケシス自身、兄は信用できても王は信用できなかった。この戦いにおける1つの不安。それは王であった。
「オレは思わない。で、本当にそうなったとき、エルトシャンはどちらに付くと思う?」
ベオウルフは言葉を発することができないラケシスに続けて言う。
「エルトシャンは・・・・・・・」
「やめて!!」
ラケシスは言葉をさえぎる。
聞きたくなかった。まだ若干16歳の少女である彼女にはきつい言葉である。兄を敬愛してやまない少女にとって考えたくないことであった。
「兄上は、兄上は必ず陛下を説得してくださいます!!」震える手を握り締め、涙が出そうになるのを我慢してラケシスは叫ぶ。ベオウルフに向かって、というよりは自分に言い聞かせるように・・・・・・。
「出て行って。早く、出て行きなさい!!私を1人にして。」
ラケシスはそう言った。
ベオウルフは彼女を心配そうに見たが、何も言わずに部屋を後にした。
ベオウルフが出て行ったあと、部屋は沈黙が支配した。
沈黙は不安を煽る。今のラケシスにとってはなおさらのことであった。―――――――――――――――王が引かなかった場合、誇り高い兄上は王に従うであろう。アグストリアの聖騎士として恥ずかしくないように。エルト兄様はそういう方だもの・・・。ベオウルフに言われなくとも、私だって解っていますわ。
ラケシスの瞳から涙が零れる。漠然とそうなったとき、自分は一体どうするのだろう、と思った。
「エルト兄様・・・・・・・ラケシスは信じておりますから。」
不安がないと言ったらおそらく嘘になる。でもラケシスにはどうしてもシグルドたちのもとを離れられなかった。自分を振るいたたせるため、そう呟いて、戦いに望むため、部屋を後にした。
(獅子王・続く)
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後書き
四発目。
あれ〜??エルトシャンが出てこなかった・・・。
あはは。
ってか、ベオ×ラケシス?
・・・いえ、これから物語りは進展させますとも。
ラケシスのお相手は、いろいろ考えて、彼にしちゃいました。
いいんです、実際はあんまりありがたみのない10000Gくんでも(笑)
あ、ちなみに、ここのベオさんはエルト兄さんや、シグリンとは言わなくとも、そこそこ強いという設定。だって、姫さんの護衛に雇われてますから。
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