シグルドはディアドラを妻として迎え、未だに内乱の収まらないヴェルダンを統治するためにエンバス城に留まっていた。
実質は盗賊などの討伐を行うだけだったので、しばらく平和な時が流れるとばかり思っていた。
■3.アグストリアの動乱■
シグルドは、その日も穏やかに過ぎると思っていた。
いつもどおりに起き、妻におはよう、と声をかける。城には妹・親友・仲間達がいて、剣の稽古をしたり、冗談を言い合ったりしている。
・・・まさに平和といったところだな。
そう、彼はすぐに故郷であるシアルフィに帰れると思っていた。ヴェルダン領内の小競り合いは大方収まり、一息ついたところである。
丁度、父に婚姻の連絡を入れないと、など思っていた時、慌しい足音が近づき、呼び止められた。
「シグルド様!大変です!!」「何かあったのか?」
振り返ると、ノイッシュが居た。ここのところ、大きな争いがなかったので安心していたため、その焦りようからただ事ではないと悟った。
「ノディオンのラケシス姫様から救援の要請が届きました。エルトシャン様の留守中に隣のハイラインから奇襲をしかけられたようです!!」
ノディオンはアグストリア諸国連合の最南端に位地する。アグストリアには5つの小国家があり、それを統一するのはアグスティ王家であった。今回の事件は、ノディオンの王でシグルドの親友であるエルトシャンが城を妹のラケシスに任せ、アグスティへ出かけている最中に隣のハイラインが攻めてきたとうことであった。
「エルトシャンは私の親友だ。その妹が助けを求めてきたのだ、ラケシスに何かあれば私はエルトシャンに会わせる顔が無い!すぐに救援に向かおう!!」
シグルドはすぐにエンバスを出発し、ノディオンへと進めた。
勿論傍にはディアドラを伴って。
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「ラケシス!無事か??」
「シグルド様、来てくださったのですね!!イーヴ達がなんとか守ってくれていましたので大丈夫ですが、彼らが・・・」
「もう大丈夫だ、後は私達が戦おう、彼らの手当てを。」
ラケシスは気丈に振舞った。本当は戦いなどはじめてのことで、心細かった。これほど兄に傍に居て欲しいと思ったことはなかった。
・・・エルト兄様、早くお戻りください。
それはシグルドにもわかった。彼女は振るえる手で剣を握っていた。エルトシャンが彼女の護衛のために残したクロスナイツたちもかなり疲労している。
何とか間に合ったようで安心した。
戦況はクランベル軍の到着により一変した。劣勢であったノディオン側が一気に優勢となり、ハイライン城は陥落した。
「これで終りだな。エルトが帰ってきたら久し振りに3人で酒でも飲もうか。」
「ああ、エルトとかしばらく会って居ないし、この戦いが一段落すれば…キュアン、君もレンスターへ帰るんだろう?」
「ああ、そうそう国を空けては置けない。父とランスリッターがいるとはいえ、トラキアとの国境は心配だ。」
「そうか・・・そうだな。」
キュアンの国レンスターでも隣国トラキアとの争いが絶えない。とりわけ、今のトラキア王・トラバンドは野心家であるためたびたびレンスターの領土へと侵入を繰り返していた。
そのため、王子であるキュアンは多忙である。今回のような緊急の時でもなければ、ゆっくり会う機会は少なかった。
それから2人が官学校時代の思い出話に花を咲かせていると、緊急の報告が入った。
「兄上が!!陛下に囚われたですって!?」
「エルトは無事なのか?」
「はい、エルトシャン様はアグスティ城の牢に囚われたようです。諸国には、村を襲う者達が出没し・・・・・・」
そこで使者は口を噤む。
シグルドは怪訝に思うが、先を促した。
「なんだ?続けれくれ」
「・・・・・・アグスティはエンバスを落すために兵を向けたようです」
「なんだと?シャガール王はクランベルに戦争を仕掛けると言うのか!?」
「はい、どうやらそのようです」
「・・・・・・なんということを。」
「シグルド様・・・」
口を開いたのはラケシスだった。兄をどうか助けて欲しい、口には出さなかったが、ラケシスの目を見れば何を思っているか、一目でわかった。
「ラケシス、エルトシャンを助けに行く、彼なら、シャガール王を説得できるだろう」
シグルドはそういうと、出陣を決めた。しかし、助けを求める村を放置しておくこともできない。なんとか助けを、と指示を出し、自身はアグスティへと向かった。
戦いは強行軍となった。一刻も早くエルトシャンを助け、戦いを終らせるためにシグルド達は必死に戦った。エルトの妹・ラケシスも兄のために、と供に行くことを譲らす、同行する。
ラケシスにとっては本当に過酷なものであった。しかし、途中でやめることはできない。兄を早く助けるため…いや、本当は自分が早く兄に会いたいために戦っているのかもしれなかった。
・・エルト兄様、待っていて下さいラケシスは必ず参ります。
必死に剣を振り回す。彼女の剣は魔法の込められた祈りの剣。本来は平和を願って作られたものであるため、攻撃力は少ないが、回避を助けてくれる剣である。
「きゃぁ!」
一瞬であった。気を抜いたその間に剣がはじかれ、ラケシスの前には剣が向けられた。
「ラケシス!!」
シグルドが叫び、キュアンが手槍を飛ばす。ラケシスは目をつぶった。もう終りだと思った。
・・・・・・・
しかしラケシスに剣は振り下ろされなかった。その代わりに振ってきたのはことばであった。
「アンタがエルトシャンの妹か。ここはアンタのようなお姫さんが来るところじゃない、帰れ」
ラケシスは兄の名前に反応し、目を開く。目の前には1人の傭兵が立っていた。
「エルトシャン・・・兄上をご存知なの?」
「ああ、やつほどの剣の使い手はなかなかいない。傭兵のオレがエルトシャンと知り合いなのがおかしいか?」
「い、いいえ。そういうわけではございませんが・・・」
エルト兄様はいろいろな所に人脈があるわ。でも兄様から私の名前を聞くくらいの親しい方の中に傭兵の人がいるなんて・・・。
ラケシスは思う、恐らくこの人は剣の腕が立つのだろうと。
「傭兵は金で雇われる。エルトシャンの妹とは戦いたくないが、これも仕事だからな。できるなら、城に帰ってくれ。」彼は悪いな、という。しかし目は本気だった。
・・・傭兵は金で雇われる・・・
その言葉がラケシスの頭で反復される。
「あ、あの、いくらで雇われましたの?私、今10000Gでしたら持っています。これで私の護衛の仕事をしてくださいません?後払いでよろしかったら、戦いの後に払いますから。」
気付いたときには口に出していた。言ってしまった後で、こんなことは言っても無駄かもしれない。自分は足手まといになるから、城に戻ったほうが良いのかもしれない、と思った。
一方、言われた方の傭兵は、呆気に取られた。思ってもいなかったことを口にされ、何も言えないようであった。
「・・・ご、ごめんなさい、無理ですわね。こんな時に。いいですわ、貴方が敵でも私は戦います。」
そう言ってラケシスは再び剣を取る。
エルト兄様のお知り合いの方なら、私には敵わないでしょう。でも、私は引くわけには行かないのです。兄様、どうかラケシスに力を貸してください。
と、突然目の前の男は笑い出した。
「あっはっは、負けたよ、ラケシス姫。流石はエルトシャンの妹だ。いいだろう、10000Gで護衛を引き受ける。」
男はベオウルフと名乗った。ついでだから、あいているときに剣の稽古もつけてやるよ、と気さくに言った後、ラケシスは後方に下がるように指示し、戦いの中へと馬を走らせて行った。
子供扱いされたようで、ラケシスは気分を害した。
・・・私だって、戦いますのに、後方支援だなんて。それに、雇ったのは私ですのよ?どうしてベオウルフに指示されなくてはいけないの?
自分も!と再び戦場に行こうとしたとき、エーディンに引き止められる。
「ラケシス、焦ってはダメです。今は自分にできることしましょう。戦いは、まだ慣れていないのでしょう?無理をなさって怪我をすると、エルトシャン様が悲しまれるわ」
ラケシスは頷く。確かに、自分の体力はもう限界であった。いくら魔法の剣であるとはいえ、ろくに休まず走り回れば疲労は溜まる。幸いラケシスには回復魔法が使えるので、後方での支援を中心に参加することにした。
自分の身くらいは守れるように、あとでベオウルフには訓練してもらおう、と思うラケシスであった。
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アンフォニー、マッキリーと軍を進め、ついにアグスティへと到着したシグルドは、真っ先にエルトシャンのいる牢へと向かった。
・・・彼はすでに助け出された後であった。
「エルトシャン!!」
シグルドは城中彼を探した。もちろん、彼の妹であるラケシスも必死に姿を探したが、彼はなかなか見つからなかった。
そうしている内にシャガール王が逃亡したとの報せが入った。
「・・・一体誰が手を・・・」
その場にいた全員が言葉を口にすることなく、沈黙が漂ったときにであった。
城の置くから一つの声がした。
「私だ。」
「「エルトシャン(様)!!」」
「兄上」
いくつかの声が重なり、奥からエルトシャンが現れた。
しかし、彼の顔には怒りが見えた。無理も無いことである。アグストリア諸国はクランベルによって制圧・統治されていたのだから。
「すまない、エルトシャン1年だけ待ってくれ。1年で必ず私達はクランベルへ帰る。」
怒りを隠さないエルトシャンにシグルドは言う。クランベル側からすれば、いきなりアグストリアから攻撃を仕掛けられ、仕方なく応戦したのである。統治は王から言われたものでシグルドの判断ではないが、必ず引き上げるように説得する、とシグルドの真摯な態度にエルトシャンは彼を信じることにした。
自分はシルベールに留まり、陛下を守る。と言い残し、エルトシャンはアグスティを後にした。
こうしてアグストリアの動乱は収まり、シグルドはクランベルへの説得に駆使するのであった。
(アグストリアの動乱・終わり)
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後書き
三発目。
今回書きたかったのはラケシスとベオウルフ。
ラケシスはちょっと子供っぽくなったかも。
でも、お兄ちゃん子の良い子です。
ベオウルフは、人生を楽しんで生きる、そんな自由な人であると妄想中。
だから、自由な傭兵なんです。
…はじめの方のシグルドとキュアン様の会話は管理人の趣味。
だって、キュアンがなかなか出せないんですー!!(泣き)
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