27.憧れ




「お姉様」

フュリ―は、立ち去る姉の後ろ姿をずっと見つめていた。
ずっと目標としてきた、強く、優しく、美しい人。
その姿が、あまりにもまぶしくて、羨ましかった。

そして、自分と比べて落ち込んだ。


「私は、お姉様のように強くはなれない」


マーニャの影で、フュリーはいつも劣等感を感じていた。
敬愛しているけれど、素直にその気持ちを認められない、というか。
これまで複雑な思いで姉を見てきた。


自分だって、レヴィン王子が好きなくせに、フュリーが王子に恋心を抱いていると知ったとき、素直に応援してくれた。

どうして、そんな気持ちになれるんだろう。
私より、お姉様の方がずっと王子に相応しいのに。


もうすぐ、マーニャが出陣する。
いつものように、勝って戻ってくるだろう。
気高いペガサスに跨って、戦場をかける姿はさぞ美しいだろうと思う。

フュリーにとって、姉のマーニャはずっと敵わない人であった。


「お姉様、帰ってきたら、また話しを聞いてくれますよね?」

そう確信して、呟く。
自分も変わらなければならない。
いまのままでは、本当に劣等感の塊になってしまう。


フュリーは、一人セイレーン城でたたずんでいた。


その後、フュリーは誰もいない廊下を駆け抜けた。

フュリーは俯いたまま走った。
自分が何も出来ないのが悔しくて、どうしようもなくて。
ただ、誰かに話を聞いてもらいたかった。


ドンッ!!

「「あっ!!」」



俯いたままであったため、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
急なことで、フュリーは顔をあげて相手を確認することができなかった。
ただ、彼の羽織っているマントが、鮮やかな赤色をしていることだけに気付いた。














「ごめんなさい、僕急いでいたから」

ぶつかった相手である赤いマントの人物は申し訳なさそうに謝った。
フュリーが下を向いて座りこんでいるのを見て、彼はハンカチを差し出す。

「あの・・・泣くほど痛かった??ごめんなさい。これ使って下さい」

おろおろとした様子で、フュリーにハンカチが差し出された。
差し出された白いハンカチを見つめていると、さらに困惑したような声が聞こえる。


「あ、きちんと洗濯してますから、綺麗ですよ。大丈夫です。」

あまりにもおろおろしている様子だったので、フュリーはハンカチを受け取った。


「大丈夫ですか?」


ハンカチに顔を伏せたフュリーになおもその人物は声をかける。
ゆくっくりと、顔をあげると、心配そうな顔をしたウェルドマー公子アゼルがいた。

「え、ええ。こちらこそ、きちんと前を見てなくて、ごめんなさい」

身分から言えば、自分とは決して口を聞く事はない人物である。
クランベルの貴族と、シレジアの一兵士。
気が動転していたとはいえ、自分のおかした失態にフュリーは謝る。

「いいよ、気にしないで。」

帰ってきた答えは、とてもシンプルであった。
あっさりと気にしないでと言われ、普段なら恐縮するものだが、この公子から言われるとなぜか温かな気がした。

不思議に思って、アゼルを見つめるフュリー。
そんな彼女の様子を見て、アゼルは苦笑を漏らす。

「そんなに気構えなくてもいいよ、フュリー。・・・兄上には叱られるけど、僕身分とか気にしてないから。」

その言葉は、とても優しく、フュリーの耳に届いた。
型破りなシレジア王子は除いても、自分の知っている貴族とか全く違う。
不思議な感じのする人だ、と思った。


「どうして、泣いてたの?」

フュリーの目が晴れている様子から、ぶつかったことで泣いているのではないらしいことは明らかであった。





































「・・・・・・・・・・そうか」

フュリーの話を聞いて、アゼルは何と声をかけようか悩んだ。

アゼルにも決して手の届かない兄がいる。
強くて、自分には敵わない。

「僕にも、憧れてる兄がいるんだ。」

フュリーは隣で、アゼルの話を黙って聞いた。

「いや、異母兄弟はたくさんいるんだけどね。一人だけ、跡取りの兄上はずっと遠い存在なんだ。
僕には優しいけど、他の人にはどこかよそよそしい。」

「・・・・・・・・・・」

「でも、その兄はとっても強くて、凄いんだ。伝説の魔道書ファラフレイムに認められるくらいに。」

そういってアゼルは兄のいるクランベルの空の方を見あげる。

「兄上は僕に、そのままでいいって言ってくれるけど、僕は強くなりたいんだ。自分の守りたいものを守れるくらいには」

そういって、微笑むアゼルの横顔は、ただ優しいだけとは違っていた。

「アゼル様も、私と同じなんですね」

「みんな同じじゃないかな?憧れている人物に近づきたいって心は」

「・・・・・そうかもしれません」

「僕は、まだ弱いけど、だからこそがんばるんだ」

「アゼル様」

「だからさ、フュリーも自分に劣等感を持つだけじゃなくて、自信を持ったらいいよ」

「・・・・・・・・・・・・ありがとうございます」


アゼルと話して、フュリーの心は少なからず楽になった。
確かに、憧れる気持ちというのは誰にでもあるのかもしれない。

ただ、それに近づくために努力するか、しないか、それが大切なのだ。

目の前で笑っている一見頼りなげなアゼルから、フュリーは学んだ。


「私も、いつかお姉様のようになれるよう、がんばります!」


「うん、じゃぁ競争しようか。どっちが先に強くなれるか」

「はい、負けませんよ?」

「望むところさ」









その後、フュリーとアゼルがそれぞれの憧れるものにたどりつけたかどうかは、ご想像にお任せします★


(憧れ・終わり)





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後書き

サイドストーリー。番号としては27
でも書いた順番は、15発目

フュリーは、引込みじあん。
アゼルも似たようなもの。なんて思ってる私。
でも、ここのアゼルは、ちょっと違います。前を見て、しっかりと歩いてゆく子に見えたら嬉しいです。


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