■25.友情■
クランベル王国バーハラ士官学校、ユグドラシル大陸のなかで最も格式のある学校であり、各国の王室や有力貴族の子弟が集うところである。
勉学はもちろん、体術・礼儀作法等、卒業するまでにはどこの社交界にでても恥ずかしくない人間にということをモットーに、今日も授業が行われている。
学びたいという志を持った者は拒まない、という王の方針により、現在は他国から2人の王子も招いている。
一人はアグストリア諸国連合、ノディオン王家の王子エルトシャン。
もう一人はレンスター王国王子のキュアンであった。
もちろん、純粋に勉学に励むためだけに来たわけではない。
先にも述べているように、バーハラ士官学校には有力貴族の子弟も通っている。…つまりは社交の場としても重要な意味を持っているのであった。
加えて、この両者は婦女子に人気が高かった。
ノディオンのエルトシャンは、黒騎士ヘルズの末裔で魔剣ミストルティンの継承者である。
その剣を振るい戦う姿は獅子のようだと言われ、彼に並ぶのは同じく聖騎士の末裔で剣を継承するものだけであろうと言われている。
長身、金髪碧眼。加えて容姿端麗ということで、婦女子の間では密かに慕うものも多い。
まさに『完全無欠』で彼に不可能なことはない、という印象があるが、その完璧さ故に近寄り難い、というところもあった。
一方、レンスターのキュアンは、槍騎士ノヴァの末裔でこちらもまた地槍ゲイボルグの継承者である。
剣は得意で無いと本人は言うが、その代わり、槍に関しては右に出る者はない。
エルトに同じく長身であるが、こちらは栗色の髪に茶色い目、人をなごませる笑顔が印象的な青年だ。エルトシャンとは雰囲気が違うが、こちらもやはり容姿端麗である。
近づきがたい彼とは反対に、親しみやすい印象のため、キュアンの周りには人が絶えない。勿論婦女子らにも慕うものも少なくないのである。
士官学校に入学当初、他国から来た、いわゆる『よそ者』ということでクランベルの貴族の子弟からは奇異の目で見られることが多かった。
表向きは平和であっても、国同士の仲が良いとは限らないのが実情である。
キュアンのレンスターは昔からクランベルと仲が良かった。加えて彼の人を引き付ける性格が手伝って、溶け込むのにそう時間はかからなかった。
…しかし、エルトシャンはその生真面目さ故になかなか馴染めないでいたのであった。
そんなある日、事件は起こる。
「あー、雨だ。どうする?シグルド」
その日キュアンは友と一緒に遠乗りに出かける予定であった。
その友とは、クランベル王国シアルフィ公家の嫡男、シグルドである。
まさに爽やか、という言葉がぴったり合う人物である。
聖騎士バルトの末裔で聖剣ティルフィングの次期後継者、エルトシャンに匹敵する剣の腕の持ち主の一人である。
その鮮やかな剣さばきとは反対に、どこかおっとりしたところのある人物である。
「ああ、そうだな。延期するしかないな。」
あー、残念だー、と言わんばかりに溜息を付くキュアンを見て、シグルドは苦笑を漏らす。
いくら不平を言っても、雨が上がる見込みはない。ざーざーと音を立てて降り続いている。
「「せっかくの休みなのに、することがないな」」
…よほど息の合うのであろう、はーっと溜息の後、2人同時に呟いた。
顔を見合わせた2人は、同じことを呟くなよーとか思いながら笑い合う。
「よし、じゃあ今日は練習場で手合わせでもするか!」
「ああ」
なんとなく、成り行きでそうなり、学校内の練習場へ向かう2人。
冗談を言い合いながら歩みを進め、闘技場についたとき、そこには人の影があった。
「誰だ?」
突然声がかけられた。
2人が聞き覚えのある声の方へ視線を向けると、エルトシャンが剣を握っていた。
「あ、お前、ノディオンの…」
「レンスターの王子とバルトの末裔か」
キュアンがそう呟くと同時に、エルトシャンが言葉を発した。
が、それは、2人の名前ではなく称号であった。
そのいいようにムッとしたのはキュアンである。
シグルドはどっちかと言うと、呆気にとられていた。
「その呼び方はやめてくれないか?私はキュアン、こっちはシグルドだ」
「ならば、俺のことも名前で呼んでもらおう。エルトシャンだ」
エルトシャンはキュアンが差し出した手を握り返し、不適に微笑んでそう言った。
これが3人の出会いであった。
握手をした後、3人は供に手合わせをすることとなった。
「エルトシャンは休日はいつも練習しているのか?」
「ああ、俺は強くあらねばならんからな。」
エルトシャンの剣を構える姿は気迫迫る者があった。
もはや訓練の域を越える、実践さながらに打ち込んでくる彼の姿を見ていたシグルドはそう尋ねた。
その問いにエルトシャンは当然だ、と言わんばかりに答える。
―強くなければならない、それはエルトシャンにとっての全てであった。
小さな国々が集まって形成されている彼の国においては、弱いこと=国の存亡のの危機なのだ。
当然、次期である彼に対する民の期待は高かった。王は強くなければならないのである。
彼の様子を見て顔を見合わせるシグルドとキュアン。
お互いに、もうちょっと肩の力を抜けばいいのに、という顔をしていた。
シグルドの父は王子から最も信頼を寄せられ、彼自身も将来は国の重要人物となるだろうとされ、回りからの嫉妬はすさまじいものがあった。
…しかし、彼はというと、そういう方面では鈍いというか気にしないというか、とにかく彼の温和な性格故に何事もなく今まで乗り切っていた。
同じ王子という立場のキュアンはというと、レンスターの人情豊かな国柄と彼自身の人柄故に、国民からは信頼を寄せられ、国もとではそのようなこととは無関係であった。
簡単にいうと、その豊かな国柄故に邪な野望を持つ者や、反乱を起こそうと企む者が居なかった、ということである。
こんな2人の状況と180度ことなるエルトシャン。
また、追い討ちをかけることになるが、彼の性格だ。
これがシグルドの天然の半分、キュアンの人懐っこさの3割程度でも持ち合わせていれば、なんとかなっだだろうが、残念なことに彼は生真面目過ぎていた。
「エルトシャン、今度遠乗りにでかけよう!」
ある方面ではすさまじい鈍さを誇るシグルドであるが、時としてすさまじく頭の回転が早い。
「・・・・・・・・・・・・・・断る」
しばしの沈黙があったのは、突然の提案にエルトシャンが唖然としたためである。
しかし、腐っても鯛、どれだけ動揺しようとエルトシャンである。
あまり表情が出ない感謝しつつ、すっぱり断った。
が、彼はここにキュアンが同席していることを失念していた。
シグルドの意図に気付いたキュアンは彼に便乗することにし、何か企むような笑顔を浮べていた。
結局、エルトシャンは妥協せざるを得なかった。
シグルドとキュアンは人目を気にしないであの手この手を使い、すさまじい粘りで彼を口説き落したのである。
流石のエルトシャンも根負けをしたということだ。
このとき、彼は1つのことを学んだ。
この2人にダックを組まれて迫られると面倒なことになると。
―数ヵ月後―
「なぁ。エルト、久し振りに遠乗りに行かないか?」
もうすっかり親友と呼ぶような地位を獲得したキュアンが呼びかける。
はぁ〜と盛大な溜息を付きながら、肯定を示すエルトシャン。
彼に笑顔で問いかける茶髪の青年のとなりには、「もちろん行くよな?」という笑顔を浮べるシグルドが立っていた。
ともかく、断るという選択肢は存在しなかったのである。
いつからか、"妹がエルト兄様”と呼ぶのを聞いたあと、2人はエルトシャンのことをエルトと呼ぶようになっていた。
…彼自身はやめろと言ったが、言って聞くような2人ではなかった。
かくして、呼び方と供に態度も親しさをまし、彼の頭痛のもととなっていった。
「どうかしたのか?エルト」
あれこれ思っているエルトシャンにシグルドは呼びかける。
どこか人を引き付ける笑みだ。
彼とて、信頼を寄せられるのは嫌ではない。
ただ、性格故に気恥ずかしさが先立って、素直に喜べないだけであった。
・・・まぁ、やつらに付き合うのも悪くない。
相変わらずの無表情のなかで、そう思うエルトシャンであった。
(友情・終わり)
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後書き
サイドストーリー。番号としては25
でも書いた順番は、13発目
FEで親友といえば、マルスとマリク、シグルドとキュアン・エルトシャンでしょう。
あとは、子世代御三家、リーフとアスベル、エリウッドとヘクトルですか。
ということで、親世代御三家。
きっとエルトシャンは2人に振り回されるという役回りだったことでしょう、ということで。
書いてて、もっと文才欲しーと思いました。
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