■20.ウェルドマー■
『兄上、何処に行かれるのですか??』
『王様のところだよ』
『僕も連れて行ってください!!』
『あはは、もう少し大きくなったらな』
『本当ですか?僕も大きくなったら兄上のようになれますか??』
『ああ、早く大きくなって私を助けてくれよ』
『はい!!僕、がんばります』
『いい子だ、アゼル』
『兄上、大好きです』
「・・・・・夢・・・・・・・・・・か」
窓から柔らかな陽射しの差し込む一室で、アルヴィスは目を覚ました。
先日、亡きクルト王子の子であるディアドラ王女と結婚し、将来を約束された彼は、もともと国王の側近であったため、実家であるヴェルドマーではなく、王都バーハラに住んでいた。
「アゼル、お前だけは助けるぞ」
彼の弟・アゼルは、反逆者シグルドの軍に居た。
最初は、アゼルの思いを寄せるエーディンがさらわれたことによって参戦した弟の意思を尊重して、見て見ぬフリをしていたアルヴィスであったが、今は話が違った。
シグルドが反逆者として処刑されなければならないからである。
彼が無実であるというのは、わかっていた。
しかし、アルヴィスはあえて反逆者として彼を仕立て上げなければならなかった。
心にある様々な嫉妬心がアルヴィスをかき立てる。
愛する妻・ディアドラは実はシグルドの妻であった。
彼女は記憶を無くし、そのことは憶えていない。
始めは同情心から彼女に接していたが、いつしか愛するようになり、手放したくなくなった。
―彼には縁のなかった愛情という名の安らぎを与えてくれる存在として。
今の幸せを壊さないためには、シグルドを始末する必要があった。
幸いなことに、レプトール・ランゴバルトの両公爵がシグルドの失脚を企て、さらに彼らも自滅の道をたどった。
あとは自分が最後の仕上げをするのみである。
しかし、一つの問題が残っていた。
それが弟の存在である。
先にも述べたように、弟のアゼルは今シグルド軍に所属している。
このままでは、弟にまで攻撃の手が回ってしまうこととなる。
幼いことから、自分の後をついて回っていた可愛い弟。
周りからプレッシャーをかけられるなかで、唯一安らぎを得られた瞬間が、弟といる時であった。
引込み思案な弟は、時に自分に対して怖がっているような様子を見せたが、それでも、兄を慕っていた。
名門貴族に生まれ、嫉妬の中で生きてきたアルヴィスの唯一守りたい者であった。
「こんなことになるなら、あのときに行かすべきではなかった。せめて、ヴェルダンの戦いが終ったら連れ戻すべきだった」
溜息とともに、過去を悔いる。
離れていても、弟が大切なことには変わりない。
嫉妬の中に入れたくなくて、ずっと純粋なままでいて欲しくて、弟を権力から遠ざけていた。
ただ居てくれるだけでよかった。
「アゼルを連れ戻す。シグルドとともに死なせなどはしない!」
アルヴィスはそう決め、単身でアゼルを連れ戻すべく、バーハラを後にした。
アゼルは、一人たたずんでいた。
ランゴバルト卿を倒し、レプトール卿もまた倒した。
幼馴染のレックスとティルテュは、父との辛い戦いを強いられていた。
エーディンとブリギットもまた、実の弟と戦った。
「僕も、兄上と戦うんだろうか・・・・・・・・・・・・・」
アゼルは兄を思い浮かべた。
自分には、限りなく優しかった兄。
執務中は近寄り難いオーラを醸し出し、恐怖を感じたが、自分に対しては甘かった。
誰よりも強く、凛としていた兄。
近づきたくて、努力すればするほど、空しくなった。
決して、誰も側によらせない、という雰囲気を纏っていたからである。
「皆もこんな気持ちだったのだろうか」
同じように兄と敵対したノディオンの王女は戦場に飛び込んで兄を説得した。
その結果、エルトシャン王は無念の死をむかえることになった。
同じように、自分にアルヴィスを説得することができるだろうか。
したところで、兄がすんなり引き下がるとは思えなかった。
もともとアルヴィスがシグルドのことをよく思っていないのは解っていた。
「兄上、どうか誤解を解いてください」
アゼルの視線のずっと先にはバーハラがある。
力のない自分を悔いて、拳を握り締めたとき、後ろから声をかけられた。
「アゼル」
はっとして、振り返ると、兄が立っていた。
「兄上!!」
「アゼル、成長したな」
「兄上、本物なのですね!どうか、どうかシグルドの疑いが誤解であると陛下に!!」
アゼルは必死に兄に訴えた。
シグルドは無実なのだ、と。
ただ、策にはめられて疑いをかけられただけなのである。
兄なら、なんとかできる。それだけの権力をアルヴィスは持っていた。
その期待をこめて、アゼルは兄に訴える。
「・・・・・それは、できない。」
しかし返ってきた返事は、アゼルの期待を裏切った。
「え?」
なんのことか、一瞬理解できなかった。
「アゼル、ここにいては危ない。ともにバーハラへ帰るぞ」
呆然とするアゼルにアルヴィスは続けた。
何を言っているのか、アゼルにはわからない。
「何故です?兄上、貴方なら疑いを晴らすことは簡単でしょう?」
我に帰ったアゼルは必死に訴える。
「・・・・・・・・・それはできない。それよりアゼル、お前は私とともに来るんだ!」
アルヴィスは、反論は許さない、とう意味を含めてそう言った。
アゼルには、もう兄が考えを改める気がないのだということが解った。
「兄上、どうあっても駄目なのですね」
「くどいぞ、アゼル。」
兄ならなんとかしてくれるのではないか、という浅はかな考えをアゼルは叱咤した。
いつまでも、兄にばかり頼っていてはいけない。
急かす兄にたいあして、アゼルは黙ったまま俯いていた。
「さあ、アゼル。時間がない」
!!!!!
いつまでも動こうとしないアゼルを見て、アルヴィスは弟の腕を取った。
が、それは空ぶりに終った。
アゼルがかわしたのである。
「僕は、バーハラには帰らない!」
今度は、アルヴィスが言葉を失う番であった。
これまで、アゼルは兄に逆らったことがない。
そんな彼が珍しく見せた反抗であった。
「僕にも、守りたいものがあるんだ。」
「・・・・・アゼル・・・・」
「兄上とは一緒に行けない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「我儘な弟でごめんなさい。でも僕は僕の信じる道を行きたい!もう、守られるだけじゃいやなんだ」
「アゼル・・・・・・・・・・・・大人になったな」
「兄上、僕は貴方が怖かった。いつも毅然としていて、どこか近寄りがたかった。・・・・でも、尊敬してました。」
そういってアルヴィスを見ると、もう彼は無理にアゼルを連れ戻そうとはしなかった。
一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐにいつもの顔にもどった。
「後悔は、しないな?」
「はい。」
「では、もう行け!」
「はい、兄上、お元気で」
それだけ言うと、アゼルは馬に乗って行ってしまった。
「本当に、成長したな・・・・・・・・・・・」
次に会うときには戦場になるだろうか。
ずっと白いままで、戦場とは離れたところにいて欲しかった弟の背中を見つめる。
本心を言えば、無理やりにでも連れて帰る気であったが、あれほどはっきりと自分を主張するアゼルは始めてであったため、アルヴィスは弟を行かせてしまった。
成長した弟を見、頼もしく思う反面、もう自分の後をついて回っていた弟はどこにもいないのだ、という喪失感にとらわれた。
その後、対峙することとなったこの兄弟は、互いに引くことなく戦ったという。
(ウェルドマー・終わり)
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後書き
サイドストーリー。番号としては20
でも書いた順番は、14発目
アルヴィスはブラコンだー。そしてシスコンだー。と思います(汗)
↑だって、ディアドラは異父兄妹だもん。
ファンの方、ごめんない。
今回、後書きは特にないです。
きっと、アルヴィスはシグルドが羨ましかったのでしょう。
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