19.バーハラ



シグルド様という方が反逆者として処刑されて数日間、私の夫であるアルヴィス様の様子が変でした。

いつもなら、穏やかな笑顔で私を見てくださるのに、どこか上の空で、切なげな瞳をしていらっしゃいます。


「アルヴィス様…」


今日も、何故か力なさげに見えるアルヴィス様の後ろ姿をみて、思わず呼びかけてしまいました。

「ディアドラか?」


いつもなら、私が呼びかける前に気がついてくださるのに、今日は気がつかなかったらしく、驚いた様子でした。


「どうなさったのですか?近頃、元気がないようですが…」


「いや、何でもないよ。すこし疲れてね」


確かに、とても疲れているようでした。肉体的にではなく、精神的に。

でも、それを隠そうとしている姿を見ると、とても切なく心配になりました。


「…すこし休まれてはどうですか?アルヴィス様はここのところずっと働き過ぎです!」

「ははは、心配をかけてしまったかな。」


私がそう問うと、アルヴィス様は誤魔化すようにそう言いました。


「もう、そうやって誤魔化さないで下さい!今日はゆっくりしてもらいますからね」

アルヴィス様はいつも御無理をなさるので、私は先手を打って、皆に今日お休みをもらうことを言ってきていました。

その旨を伝えると、流石のアルヴィス様も目を見開いて驚いた顔をなさった後、

「あはは、ディアドラには敵わないな」

と言って笑いました。


「気分転換に、何処かへ出かけようか?」


アルヴィス様がそう提案してくださったので、私達は馬車で近くの森まで出かけることにしました。



































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人気は少なく、綺麗な湖のある広場につき、馬車から降りると、素敵な景色が現れました。
森の空気は済んでいて、とても心地良いものでした。

「流石に、バーハラの空気とは違うな」

「ええ、とても気持ち良いですね」


王都から少ししか離れていないのに、そこは煌びやかな王都と全くちがい、静かな雰囲気でした。

「森に出て正解でしたね。ここなら疲れも癒されますよ、きっと」

私は、思わず笑顔になり、アルヴィス様にそういいました。

「そうだな、ディアドラとこんな風に過ごすのは久しぶりだ。」

アルヴィス様も笑いかけてくださいます…以前と同じ笑顔で。
そんな少しのことが私には嬉しく感じました。


「では、食事にいたしませんか?私、作ってきたんです」


にっこりと笑って、バスケットを差し出すと、アルヴィス様は受けと取ってくれました。

「君が作ったのか?…料理はできたんだな。」

「もう、失礼ですよ、アルヴィス様。私だって、それくらいはできます!」


…そう、私には記憶がありません。バーハラで倒れているところをアルヴィス様に助けられる前のことはすっかり忘れていました。

でも、不思議と料理は出来ました。

…以前にした事があったのかしら?


冗談を言い合いながら、2人で食事をしました。
殺気立ったアルヴィス様でなく、私と過ごすときには優しいアルヴィス様です。
そんな姿を見て、私は愛されているのだ、と感じます。


―でも、どこか寂しい気もする。


アルヴィス様は私に何かを隠している、と思います。それが私の過去なのかはわからないけれど。


アルヴィス様のことは好きです、感謝もしていて、結婚を申し込まれたときは嬉しかった。
でも、何か違うって心の奥で誰かが言っているような気がしてならないのです。
こんなに幸せにしてもらっているのに、それが後ろめたくて。
愛しているか、と聞かれると、肯定するけれど、これが本当に愛というのか、と考えると違う気もしました。


だからでしょうか、こうして幸せそうに笑うアルヴィス様を見ると不安になるのです。


心に引っかかるのは、先日のシグルド様。
初めて会ったはずなのに、懐かしく感じてしまった。
もっとお話したい、と望んでも、彼はもういない。


「ディアドラ?どうかしたのか??」


私がずっと黙っていたからでしょうか、アルヴィス様はとても心配そうに私を見つめていました。


「いえ、アルヴィス様がいつものように笑っていらっしゃるのが嬉しくて」


首を思いっきり横に振って応えました。
それが不自然だったのか、どこか釈然としない様子のアルヴィス様でしたが、私はなんとか誤魔化しました。

「あ、それより、アルヴィス様。これからもこのように過ごす時間を作って下さいますか?」

「ああ、善処しよう」

「約束ですよ」

話題を逸らすことに成功しました。
アルヴィス様は私にすごく甘いと思います。やはり何か隠している事がある後ろめたさからくるのでしょうが、きっと、真実を告げてくれる時がくるのを待っていますね。





(バーハラ・終わり)





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後書き

サイドストーリー。番号としては19
でも書いた順番は、12発目


ディアドラが本当に愛したのは、シグルドだけだったと思います。
でも記憶喪失な上、アルヴィスのひたむきな様子に、徐々に心を開いていったのでは?
みたいな設定です。

全くもって微妙な三角関係。
まぁ、ディアドラの記憶はないわけですから、仕方ないというか、何と言うか。
アルヴィスは全てを知っていると思われます。兄妹とということも含めて。


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