15.イザ―ク



「アイラ」

アイラが心地よい風が吹く丘で寝転がっていると、自分を呼ぶ恋人の声がした。
いつもは明るい恋人の声が、今日はなんだか元気のない気がした。


「どうした、レックス?」


瞑っていた目を開けると、声の通り、どこか元気のないレックスがアイラのすぐ傍に立っていていた。


そのいつになく真剣な顔が彼らしくなく、思わずレックスの頬に手をのばしたアイラだったが、レックスはアイラの目を見ようとはしなかった。


「アイラ…その…言いにくいんだが…」


「なんだ?お前らしくないぞ」


珍しく歯切れの悪いレックスに、いつもなら、失礼なことでもずけずけと言うくせに、と冗談交じりで返しながらその先を問う。


「いや…そ、その…イザ―クのことを聞かせてくれないか?」


「イザ―ク?」


「ああ、お前のことを聞かせて欲しい」


―何を言うかと思えば、そんなことだったか。
アイラは苦笑を隠せなかった。


レックスはこれまでこの話題を避けていた。イザ―ク…アイラの祖国はクランベル、即ちレックスの国によって侵略された。その上その侵略を仕掛けた中心人物とされている2人の人物の内の1人はランゴバルト卿…レックスの実の父であった。


―私に遠慮してこれまで話さなかったのだろうが、いきなり話題に出すなんてどういう風の吹きまわしだろうか?


アイラは不信に思ったが、聞かせて欲しいと言ったときのレックスの自分を見つめる姿に心を動かされた。

―まぁ、いずれは話すだろうが…いい機会かもしれないな。


「…そうだな…クランベルや、アグストリアみたいに豊かではなかったけれど、人々の温もりが溢れたいい国だった」


そして少しずつ語りだした。
幼き日の思い出と、自分が剣の道に進んだ理由を。























***************回想*****************



えい、やぁ!!


イザ―ク城の庭には、今日も剣の触れ合う音と練習している声が響き渡る。
王子マリクルとその妹王女アイラの剣の稽古のためである。


「兄上!!もう一度!!」


「まだまだ、もっと剣を強く握れ、アイラ!」


イザークは剣聖オードにより作られた国であり、ソードファイターやソードマスターを多く輩出することで有名な国である。

当然、イザーク王家はオードの血を引き、その嫡子となれば神剣バルムンクを使いこなすことができる剣の達人として名高い。

次の王となるマリクルも当然のことながら、剣の腕において右に出る者はいなかった。


「あ〜、やっぱり兄上には敵いません!」


「そんなことないさ、アイラもかなり上達しているぞ。」


「では、がんばれば私も戦いで兄上のお役に立てますか??」


どうしても兄に認められたいアイラは、目を輝かせて兄を見る。
神剣が使えなくとも、アイラは十分に剣を使いこなせる資質があった。
そんなアイラの一生懸命な姿を見て、マリクルは微笑みながら言う。


「ああ、アイラは筋がいいからな。でもムリをしては駄目だぞ。」


そんなことを言いながら、少し休もうかとしていたところ、アイラにお呼びがかかった。
アイラの付き人であり、姉代わりでもあるシェイラであった。


「姫様!!剣のお稽古もそこそこにして、礼儀作法のお勉強をなさってください!先生方もお待ちですよ」


その姿が見えるや否や、アイラはさっとマリクルの後ろに隠れる。
アイラは、礼儀作法が決して嫌いではないのだが、何分堅苦しいのが苦手であった。


「兄上、かばってください!!」


シェイラに叱られるのから庇ってもらおうと、アイラはぎゅっとマリクルの服にしがみ付く。
マリクルはそんな妹の姿をみて、笑いを堪えるのに必死であった。


「ふっっ!!アイラ…お前も姫なんだから、逃げてないでちゃんと勉強もしなくてはな」


頭をぽんぽんと撫で、アイラにそう言うマリクル。兄としてはもう少しキツクってもよいところであろうが、マリクル自身もアイラと同じ年くらいには勉強から逃げていたという経緯があるためきつくは言えない。


「姫様!!また、そんな格好で、早くお着替えください!!先生方がそのお姿を見たら何と言うか!!」


「…だって…」


「だってもへちまもございません!昨日もおサボりになったでしょう?今日は何があってもきちんとお勉強をしていただきます!!」


「あ、兄上〜!」


助けて、とマリクルを見上げるアイラだったが、当の兄は今にも噴出しそうなる笑いを堪えていた。


「っ!ふっっあっはっは、諦めるんだな、アイラ。勉強も必要だぞ。お前も一応このイザークの姫なのだからな」


「そうですよ!1国の姫が礼儀作法もお出来にならないなんてお父上である陛下のお耳に入ったらさぞお嘆きでしょう!!」


「うっ!!」


ここぞとばかりにアイラの痛い所をつく兄とシェイラ。
大好きな兄に言われた上に父王にまで報告されたのでは、アイラには分がない。


そしてアイラは渋々城に入る。
振り返ると、マリクルが爽やかな笑顔で『がんばれ〜』と手を振っている。


「さ、アイラ様、これも大きくなったときにマリクル様のお役に立つためですよ!マリクル様をお助けしたいのでしょう?」


「わかった」


「じゃぁ、がんばりましょうね、アイラ様。礼儀作法ができるのに越したことはないですよ、いつか出会うアイラ様の好きな方の前で恥じをかかないためにも」


「いつかで会う好きな人?」


「はい、そのときは、このシェイラに真っ先にお教えくださいね!私が姫様に相応しいか検分いたしますから」


「うん!」



―いつか、そんな人が私にもできるかな…
















*******************回想終了**********************:












「で、そのあと結局勉強させられたのか?」


いきなり隣で発されたレックスの声に、アイラははっとした。
気付けば、兄の後ろによく隠れたと話したところで止まっていた。


「あ、ああ…///」


「どうした?顔が少し赤いぞ?」


ガラにもないことを思い出してしまった、とアイラは心の中で呟く。
そして隣に座るレックスの顔をちらりと見た。


「…いつか出会う誰かがレックスだったのか」


「は?」


アイラの独り言に訳もわからない様子のレックスは?マークを頭の上に浮かばせる。


「いや、独り言だ、気にするな」

















「…戦いが終ったら、2人でイザークに行こうな。」


「えっ??」


いきなりのレックスの提案に驚きを隠せないアイラだった。


「だから、2人でイザークに帰ろうってことだ!」


「あ・・・///////!!ああ」

照れながらそういうレックスに、嬉しさと気恥ずかしさが入り混じった返答をするアイラ。
いつも口げんかの耐えない2人は、こういった恋人らしい会話にはいつまで経っても慣れなかった。


2人とも赤くなり、暫く沈黙が続いたあと、口を開いたのはレックスであった。


「その付き人にも紹介してくれるだろう?」


レックスはにやり、と笑い、いつもの調子で軽く言った。
アイラの反応を楽しむかのような調子であった。


「なんとか返せよ?」


しかし、いつまで経っても、アイラはいつもの様に言い返して来ない。
沈黙に耐えられず、反応を求めてアイラを見ると、いつになく嬉しそうに微笑むアイラの姿が目に映った。


「ああ、私の夫として紹介する」


いつになく素直なアイラの反応であった。
めったに聞く事ができない恋人の言葉に、一瞬言葉を失い、目を見開くレックス。


「・・・いやか?」


その反応を不安に思い、思わずそう問い返すアイラ。

返ってきた返事は、言葉ではなく自分を抱きしめるレックスの腕だった。


「…オレでいいのか?」


「レックスがいい」


「前言撤回はないぞ、アイラ」


「臨むところだ、レックス」








(イザ―ク・終わり)





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後書き

サイドストーリー。番号としては15
でも書いた順番は、8つ目

甘い感じにしたつもりです。
…そういや、恋人前提で書いたのこれがはじめてですよ。

イザーク…オリジナルキャラだしました。シェイラさん。
いや、名前に意味はないです。役どころは、所謂メイドさんです。

レックスxアイラは友達が好きだと主張するので、今回はこの組み合わせで行こうかと。
アイラとレックスは何でもお互いに遠慮なく言い合いができる2人であると勝手に妄想。
喧嘩もしますが、それだけ仲がよいのだと思いマス。


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