■14.ノディオン■
柔らかな陽射しの差し込むノディオン城のテラスにラケシスは立っていた。純白のドレスに身を包んで。
―今日は彼女が嫁ぐ日であった。
城中お祝いムードが漂っている中、ラケシスは一人になりたくて、人気のないこの場所に来ていた。
テラスは丁度ノディオンが一望できる高さで、ラケシスの目にはいつもと変わらない国の姿が映った。
「いつみても穏やかですわね、この国は。」
そう、兄であるエルトシャンが納めている限り、この平和は続くであろうという確信があった。
ここから外を眺めるのが好きでだった…とラケシスは思い返す。大好きな兄とともに見た風景。今まではそれが日常のことであったのに、これからは違うのだ。
愛しい人の元へ嫁ぐことに後悔はしていない。しかし、長年親しんだ城を離れるのが寂しいというのも正直な気持ちであった。
ふと、後ろから近づいてくる足音が聞こえた。静寂が支配していた空間に足音が響く。
ゆっくりと振り返ると、兄が立っていた。
「ラケシス…美しくなったな。」
誰よりも気高く、誇り高い兄。いつも自分を大切に思い、時に優しく時に厳しく導いてくれた兄。
…幼くして両親を失ったラケシスにとって、誰よりも何よりも大切な人だ。
その兄が、いつもと同じように、ラケシスの大好きな笑顔で立っていた。
「…嫌ですわ、兄上お世辞など言わなくても…」
誉められるのが恥ずかしくて、つい拗ねたように口にしてしまう言葉。
お世辞などではなく、本心から言ってくれているのだとは解っているが、ラケシスは素直になれなかった。
「はっはっは、いつまでもオレのあとを着いて回っていた泣き虫だと思っていたが…早いものだな」
ラケシスが照れているのが解ったのか、エルトシャンが意地悪く言う。
「もう!!昔のことなど忘れてください!!私もう泣いたりしませんわ!!」
ラケシスは抗議する。いつもと同じ、兄妹の何気ない会話であった。兄の気遣いがあったからか、緊張が解けたラケシスは、いつものように笑う。
何気ない会話を交わでいたが、ふと会話が途切れ沈黙が2人を包む。
エルトシャンをじっと見つめると、微笑み返してくれる。
いつもの兄だ。私の大好きな。…言わなければならない、ありがとうと。
でも、ラケシスはなかなか言えなかった。
「兄上」
「なんだ?」
「私が、いつから兄上と呼ぶようになったか憶えていらっしゃいますか?」
「…私が成人し、グラ―ニェが嫁いで来た頃だったか?」
「良く憶えていらっしゃいますのね。」
「…あの頃から、ラケシスは少しずつ私から離れていっただろう?」
「・・・・・・・」
―ほんとに良く憶えていらっしゃいますのね。
ラケシスは苦笑を隠せないでいた。兄は気付いていたのだろう、自分の背伸びに。
「遠慮していたのだろう?そんな必要もないのに」
全てを見通しているぞ、というエルトシャンの物言いに、ラケシスは切り返す。
「…兄上は、女の気持ちなど解っていないのです!」
「・・・ふっ。そうか…」
優しく見つめるエルトシャンを見る。身長差があるため、どうしても下から見上げる形になってしまうのだが、いつもと同じように余裕のある微笑を浮べる兄が目に映った。
「!!!」
ラケシスは、思わずエルトシャンに抱きいた。
―言いたいことがたくさんありすぎて、何も言えない。言葉が出てこなかった。
「今日だけ、今日だけでいいですから、エルト兄様と呼ばせてください!」
エルトシャンの胸に顔を押し当ててそういうのが精一杯であった。
きっと自分は酷い顔をしている。涙がとまらなくて、大好きな兄を見るために顔を上げることができない。
そんなラケシスの肩をエルトシャンは優しく抱いた。頭をぽんぽんとなで、何も言わずにじっとしていた。
「エルト兄様、私、ずっとエルト兄様のお役に立てるようになりたかったのです!いつも兄様は私より先に行ってしまわれて、私は追いついてもすぐ置いていかれた気がしました。」
「・・・ラケシス・・・」
「私は、ずっとずっとエルト兄様が大好きでした。ずっと私の一番は兄様だと…。」
「・・・・・・・」
「でも、違いました。・・・・・・・・・・・エルト兄様、今までありがとうございました。ラケシスは、幸せ者です。こんなに素敵な人達に囲まれて。」
ラケシスの告白をエルトシャンは黙って聞いた。そしてラケシスが落ち着いた頃を見計らって言った
「ラケシス、顔を上げてよく見せてくれ。」
「兄様・・・」
ラケシスは顔を上げた。目は赤く、涙を含ませていた。
そんなラケシスを見つめて、諭すようにいう、エルトシャン。
「ラケシス、幸せになれ。」
「・・・・・・・・・はい」
『ありがとうございました』
そんな言葉では足りないくらいいろんなものをもらいました。
大好きなエルト兄様。きっと、ずっとこの思いは変わらないきがします。
愛する人ではなかったけれど、とても大切な人。
ふと気が付くと、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
きっと探しているのだ、彼・ベオウルフが。
「よし、では行くか。あまり待たせるのもベオウルフに悪いぞ。」
「はい!」
やはり、ラケシスの大好きな笑顔でそう言うエルトシャン。
この兄が妹に甘いのも、いつまでも変わらないことだろうと思う。
ラケシスは返事をして声のする方を振り返る。
ベオウルフが、手を振っている。
「エルト兄様、私・・・」
もう一度、兄を振り返ったラケシスは発した言葉を途中で止めた。
・・・後ろに立っているはずの兄の姿は消えていた。
「ラケシス!こんなところで寝ていたら風邪を引くぞ」
ぼーっとする意識の中で、声が聞こえる。
ベオウルフだ。
「あら?ここは・・・」
ノディオンではなかった。傍にベオウルフがいる。
「私、ノディオンで…」
「何を言っているんだ?ここはノディオンじゃない」
現実と夢の違いがわからなくなっているラケシスを見て怪訝そうな顔をするベオウルフ。
そんな彼の様子を見るうちに、ラケシスの意識は覚醒していった。
・・・暖かい、幸せな夢の世界から、過酷な現実の中へと
「あ・・・ああ!!」
「ラケシス?」
明らかに様子のおかしいラケシスをベオウルフが抱き止める。
「私・・・私!!」
「何があった?」
兄とは違うけれど、同じくらいに心配してくれるベオウルフ。
「・・・夢をみました。エルト兄様に、『幸せになれ』と・・・」
「・・・ラケシス」
「ベオウルフ・・・私幸せになれるかしら・・・」
涙を零しながらそう呟くラケシスを、ベオウルフはただ抱きしめていた。
ラケシスは再び目をつぶり、最後の会話を思い返した。
「ラケシス、幸せになれ。」
「・・・・・・・・・はい」
(ノディオン・終わり)
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後書き
サイドストーリー。番号としては14
でも書いた順番は、7つめっす
でも最初にこのお題を見て、これは絶対にラケシスとエルトシャンで、ラケシスの嫁入りシーンが書きたい!!と思ってました。
・・・文才がないので、おそろくおかしな話になってしまいましたが、
どーでしょうか?
・・・次はイザ―クだ。
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