■ドジな彼女と鈍感な彼■



シレジアは寒い。レヴィンはこの地で育ったから慣れているが、軍の主力陣は寒いといって皆部屋にいる。自軍の中で雪の中を歩くのになれているのは、彼を除いてフュリ−だけに思われた。

「…オレはこの寒さも好きな…」

好きなんだけどな、とそう呟きかけてレヴィンは目を疑った。なんと目の前で人が雪にはまっていたのだ。なんとか自力で脱出しようとしているようだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

一瞬、言葉を失ってしまった。

どうやら転んだらしいが、すっぽりと雪の中にはまった状態で抜け出せないらしく、手だけがパタパタと動いていた。

「とりあえず助けてやるか…」


俺も親切だよな〜と思いながらとりあえず助けるために、近づいた。












「も〜なんでこうなるのよ!?う〜抜けない〜。」


声を聞いて、どうやら、埋もれているのは女だというのがわかった。

(・・・・・・・・ドジな女だな)

レヴィンはそう思ったが、一応紳士として通っているため、笑いを堪えて女の手を掴んだ。

「きゃっ!!何???誰??」

いきなり掴まれたことに驚いたのか、雪に埋もれた女の手はバタバタと暴れ出した。
そのしょうしに女の爪がレヴィンの手を引っかいた。

「って!暴れるな。安心しろ、雪の中から出してやるだけだ。」

溜息をついてそういうと、女の手は大人しくなった。
力を入れて引いてやると、案外簡単に助け出せた。


(以外に軽いな・・・)

そう思いながら助け出した人物を見ると、まだ15、6位の少女だった。

―レヴィンとは一応面識のある少女だった。















雪に落ち込んでいたのはティルテュ。フリージシルバーの髪に紫の瞳の活発そうな人物だ。


「お前、こんなところで何してるんだ?」

記憶にある彼女は、シレジアに来た時から『寒い』と連呼していた気がする。

(ま、大方雪をみてはしゃいでいたんだろうが、)

そう思いつつペタリと座りこんだままの彼女に手を差し出した。

「・・・・・・・・・・んー、ちょっとね」

そう声を濁して言うティルテュ。

「寒いと言って騒いでいたんじゃなかったか?」

レヴィンが意地悪そうに笑ってティルテュを見た。

「そうなんだけど…」

「フリージの公女は淑やかだと聞いていたが…」

「・・・・・・・」

ティルテュは恥ずかしくて顔が真っ赤になっている。
そんな彼女がおかしくて、レヴィンはつい悪ノリしてしまう、

「ああ、たしか姉はじゃじゃ馬だったか」

くすりと笑ってそう言った。
別にいじめたかった訳では無いが、彼女の反応が素直すぎてつい口が滑ってしまったのだ。

が、当然ティルテュにも堪忍袋の緒というものが存在するわけで…
妹と比べられた瞬間にそれはブチキレてしまった。

「五月蝿い!!いいじゃない、こんなに雪が積もったのなんて見たことなかったんだから!!」

レヴィンはそう叫んだティルテュに一瞬ビックリしたが、その様子にさえ笑いが込み上げてきた。

堪えきれず、クツクツと笑い出したレヴィンを見て、ティルテュはさらにご立腹といった様子だ。

「あー、もういいわよ、どうせ私はじゃじゃ馬ですよー!」

もう開き直ってやる!といった彼女は自暴自棄にそう言った。
レヴィンは、涙が出そうになるのを必死に堪えた。

「悪い悪い、で、はしゃいでいて今に至ったんだな」

「そうよ。そんなに笑わなくれもいいじゃない」

まだ笑いを堪えるレヴィンを見て、ティルテュは頬を膨らます。
普段は大人ぶってても、やっぱりまだまだ子どもだな、とレヴィンは思った。



つーんと顔を逸らすティルテュにレヴィンは声をかけた。

「笑ったのは悪かった。いつまでもそうしてると本当に風邪を引くぞ」

その声は以外に優しいもので、再び差し出された手を見たティルテュは目を丸くしてレヴィンを見つめた。

「あ、ありがとう。」

よいしょ、と起き上がるティルテュは大きな怪我も無いようだった。

「ま、道に迷うなよ。この辺は雪が深いからな。」

笑いも落ち着いたことだし、そう言ってレヴィンは去っていこうとした…が、何かが引っかかり、レヴィンの行く手を阻んだ。

「なっなんだ??」

振り返ると、ティルテュが服をつかんで訴えるよな目をしていた

嫌な予感というものを察知したレヴィンの顔は引きつっていた。









こういう時の直感とは、案外あたるもので・・・。
さっきの威勢はどうしたのか、と思うほど素直にティルテュは答えた。

「ごめん、足くじいちゃってるみたい。誰か呼んできてもらえると助かるんだけど…」

(・・・・・・・・・やはりそうか・・・・・・・・)

あはっと言いながら手を合わすティルテュを見て、呆れた笑いをしたレヴィンは観念したように後ろを向いて屈んだ。

「あの…レヴィン??ごめんね。メイワ…」

「乗れよ」

ティルテュは?と呆気に取られた。

「何だよ、足くじいたんだろ?負ぶってやるから乗れよ」

はぁ、と溜息を漏らす。

(・・・助けてもらった上に、このうえ迷惑をかけるのは流石に遠慮するっていうのか)

「あのなぁ、このままだと風邪引くだろう?人を呼ぶよりオレが運んだ方が早い」

「・・・・・・・うん」

戸惑っているティルテュをレヴィンは強引に言い切る。
レヴィンがそういうのですまなさそうにしながらもティルテュは負ぶってもらった。






「ありがと…助かった」

別に、とぶっきらぼうにいうレヴィンだったが、後ろに負われたティルテュには耳が赤くなっているのが見えた。

「・・・・・温かい・・・・・・・」

「何だ?」

思わずつぶやいてしまった言葉だった。
が、レヴィンには聞き取れなかったらしく、聞き返されたが、ティルテュはただ一言「なんでも無い」と言うだけだった。

















翌日、レヴィンはバルコニーに立っていた。
今日もシレジアは美しい銀世界が広がっていた。

―そう、ちょうど昨日助けた彼女の髪と同じような銀。まさか昨日の今日で外に出ているわけ無いか、と思いレヴィンは部屋に戻ろうとした。そのとき不意に下から呼ぶ声が聞こえた。

「レヴィン!!」

おおーい、と言って見上げる人物を見てレヴィンは引きつった笑いをした。バルコニーの下にいた人物は昨日彼が助けたティルテュだったのである。

「懲りないヤツ…」

そう呟いたレヴィンは彼女が上がってくるのを待った。

数分後に彼女は息を弾ませてやってきた。

「ごめん、呼び止めちゃって。寒いねぇ。」

「いや、俺は寒さには慣れてるからな、どうってことはないけど…それより足大丈夫なのか?」

昨日の今日でどうしてこんなに元気なんだろうなどと思いながらレヴィンは言った。

「うん、もう大丈夫。エーディンに見てもらったしね。」

「で、今日はどうしたんだ?」

レヴィンは不思議そうに問いかけた。彼女とは魔道師同士ということで、戦いでは近くにいることもあったが、日常ではあまり付き合いがなかったのだ。

「うん、あのね、昨日のお礼を…」

そういって小さな包みを差出した。

「何?」

「用はこれだけだから、じゃぁね。」

問いかけるレヴィンに、顔を赤くしたティルテュは押し付けるという形で包みをレヴィン渡した。
そして、早足で駆けて行った。

「もう転ぶなよ!」

釈然としない様子でそう叫んだレヴィンであったが、考えても仕方ないという結論に達し、包みを開けた。

…手作りと見えるいびつなクッキーが入っていた。

目に浮かぶのは、不器用そうな彼女の姿。
表情がころころ変わる彼女は可愛らしい。

「・・・・・・食べられるのか?コレ」

―そう言ってティルテュが走り去った後を見つめるレヴィンだったが、顔がほのかに赤かったことは彼だけの秘密である。







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あとがき

レヴィン×ティルテュものです。
レヴィンって女の子に甘そう…と思って書きました。
私の中ではティルテュは天真爛漫。


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