■シスターと騎士(1)■








「ミデェール!!」

エンバス城の中庭を、一人のシスターが走ってくる。
緩やかなヴェーブを帯びた金髪をなびかせるその人を、ミデェールは穏やかな笑顔で迎える。


「どうなさったのですか?走っては危ないですよ」


落ち着いた声で、いつものように。
眩しい程の存在である彼女を見つめる。

彼女は高嶺の花

自分などが決して触れてはならない、美しい花。


「貴方を探していたのです!この間の傷がまだ癒えでいないのでしょう?」

先の戦いで、ミデェールは命に関わる大怪我をおった。
命に代えても守らなければならない、主人のために。
既に治療を施され、ほとんど痛みは無くなった。

・・・・傷跡は、一生残ることであろう。


「いえ、もう大丈夫です。私の力が至らなかっただけですから。」


心配しないで下さい、という意味を込めて、彼は言う。

対するシスター―彼の仕える公女エーディンは、辛そうな顔をした。

「そっそんなお顔をなさらないで下さい!!私は貴女を守るためにいるのですから」

彼女のそんな様子に、慌ててそう付け加える。

嘘ではない。彼は、彼女の護衛役。
彼女よりも大切なものは無い。


そんな彼の心を知ってか知らずか、エーディンは益々顔を曇らせる。

「エーディン様?」

どうにか、主に笑って欲しい、いつもの柔らかな笑顔に戻って欲しい、とミデェールは彼女の顔を覗く。
表情は真剣そのもの。

「・・・・・・・・・・・・なんでもありません」

何も言わぬ主を見て、少し心配であった。

手を差し伸べて、抱きしめたい。

そんな衝動に襲われる。
何度となく湧きあがった感情だ。
その度に、己の身分が身にしみる。

この人に触れる事は許されない。
彼女は、いずれどこかの貴族のもとで幸せに暮らすという未来があるのだから。



「何かご用でもあったのですか?」

自分の衝動を制して、話題を変える。

「ええ。私決めました」


エーディンは真っ直ぐにミデェールを見る。
身長差があるため見上げる形となったが、彼女持ち前の気高いが漂っている。
覆ることの無い意思を表していた。


「何を!!これ以上エーディン様を戦いに巻き込ませるわけには参りません!
リング様がどんなに御心配なさるか!!」

ミデェールは間髪を入れずに反対する。
当然だ。大切な主をこれ以上危険にはさらせない。

「いいえ、もう決めました。シグルド様にもご了承をもらっております」

「だめです!誰が何と言おうと、帰っていただきます」

いつになく厳しい口調で言い放つミデェール。
対してエーディンは、彼の目をしっかりと見て言い返す。



「お父様が心配するからですか?」

「それもあります」」

「私が、戦う術を持ってないからですか?」

「それもあります。」

「ユングヴィの公女だからですか!?」

「・・・それもあります」

「役に立たないからですか?」

「いや、決してそんな事は!!」



















こんな問答が続いた後、エーディンは俯いた。

「もういいです、あなたの意見は。帰りたければ、貴方一人で帰りなさい。」

「!!!エーディン様!!」

そう言うと、エーディンは走り去ってしまった。
ミデェールが呼び止めるのも聞かずに。







































・・・・・・・・・エーディン様

彼女は行くと言い出すだろうと思っていた。

次の戦はアグストリア。寄せ集めの兵ではとてもじゃないが、安全な進軍は望めない。
しかし、ミデェールには自信がなかった。

以前の戦いで、守りきれなかった、大切な主。

もし、もう一度同じ事があったならば・・・不安がミデェールの頭を過ぎる。


お世話になっている公爵に対する恩義。
それが頭から離れない。

「・・・・・・・・・・傷つけてしまった」


この最近、彼女が笑うことは無かった。

いや、笑うことはあったた。が、どこか無理をした微笑だった。
ヴェルダンの王子にさらわれ、恐ろしい目にもあっただろうに、彼女は毅然としていた。
無理をしているのが、いつも側にいるミデェールにはわかった。

あんな顔をさせたかったのではない。

早く、彼女のいつもの心からの笑顔を見たかった。
…ユングヴィで笑っていた頃のように。


このまま戦いに巻き込まれると、益々彼女にとって過酷な状況に陥ってしまう。

それは避けたかった。

エゴかもしれない、自分の勝手な思いだ。
ミデェールもそれは解っていた。











『助けて貰った恩があるのに、エーディン様さへ無事なら、それでいいのか?』

ミデェールの頭の中でささやかれる声。

『・・・・・・・・・・・・・・そ、そんなことは・・・・ない!!』

『いや、お前はそう思っている。結局は自分さえよければいいんだ!』

『違う・・・・・・・・違う、そうじゃない!!私は、シグルド様の軍に残るつもりだ!!』

『今更、いい子ぶるのか?彼女の意思は無視して』

『エーディン様は、大切な公女だ!!危険な目にあわせるわけにはいかない!!』

『公女だから、それだけの理由か?』

『ああ、リング様にはお世話になっているから』

『本当に?』

『・・・・・・・・・・・・・ああ』

『チガウ、お前の本心は』

『本心?』

ミデェールは思わず声に出す。
気付きたくない自分の本心。

いや、気付いてはいけない感情。
彼は頭を振って、歩き出す。
今はこれ以上考えたくなかった。

本心は・・・・・・その先は願ってはいけないこと―







(シスターと騎士・続く)



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懺悔という名の後書き

エーディンとミデェール。それから〜。
公女と騎士がエーディン視点だったんで、今度はミデェール側で。
予定では、3話くらいで終るはずです。
壁紙、ちょっと意味を込めて、黄色のチューリップに。
花言葉『望みなき恋』

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