■シスターと騎士(4)■











「はぁはぁ、・・・・・・・・・・・・・・・・」


ミデェールは思わずエーディンの部屋の前から走り去ってしまった。

「・・・・・・・聞いてしまった」


聞いてはならない言葉。
まして、自分の気持ちを自覚した今では、とても甘い誘惑の言葉である。



立ち去らず、そのまま聞かなかったことにすればよかったのかもしれない。

でも、そこまで感情を抑えることはできなかった。

ただ、その場から逃げるという選択肢しか浮かばなかった。



庭まで出て、テラスの一角に腰掛ける。
今は何も考える気分ではなかった。
ただ、自分に無性に腹が立っていた。


「私が、あの方の心を乱していたのか・・・・・・・・・・・」


空しく呟く。


































どれほど時間が経っただろうか、ミデェールにはわからなかった。

何もかなえないで、ただぼっと空を眺めていると、先ほどのことが夢であったのかと錯覚してしまう。


甘い夢。

このままかの人の手をとることが出来れば、どれほど幸せだろうか。





カツカツと、足音が聞こえる。

ゆっくりと視線を向けるとエーディンがいた。

「・・・・・・・・・ミデェール」

また、悲しそうな顔で自分を見つめている。

「あ、エーディン様、どうかなさったのですか?」

慌てて立ち上がって膝をつく。

…さっきのことは、聞かなかったフリをしなくては。
そう思って、とっさに出た行動だった。


「ミデェール」

頭上か響く声。
ミデェールは気持ちを抑えるために、俯いたまま、手を握り締めた。

はい、と返事を返す。

「・・・・・・・・さっきの言葉・・・・・」

エーディンは言いにくそうに言葉を綴る。

「先ほどの言葉、といいますと?
私は・・・・・・・何も聞いておりませんが?」

彼女が言いたいことが何であるか、察しがつく。
けれど、あくまで自分は何も知らないと言い張らなくてはならない。

「嘘をつかないで、部屋の前から立ち去ったのは貴方でしょう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

言ったら、彼女はきっと自分の欲しい言葉を言ってくれる。
そう思ったけれど、ミデェールは何も言えなかった。

「どうして、何も言わないの?」

不意に、目の前に雫が落ちた。
ポタポタと零れるソレは・・・・涙。


「エーディン様!」


顔をあげると、彼女が泣いていた。


「私は、」「それ以上は言ってはなりません」

続きを紡ぐエーディンの言葉を、ミデェールは制する。

「エーディン様、一時の気の迷いで、私などに言うことではありません」

「!!!そんな、私は・・・・・」

エーディンが明らかに傷ついた顔をした。
見たい顔とは正反対の顔だ。


「泣かないで下さい。」

そういって持っていた布でエーディンの涙を拭う。
…これでいいんだと自分に言い聞かせながら。




「!!!」

ドサっという音ともに、ミデェールの胸に重みがかかった。

「うわっ!!エ、エーディン様!!」

「どうして優しいの?」

突然抱き付いてきた彼女に驚いて、慌てていると、小さな声が聞こえた。

「私は、貴方が好きです。ずっと、ずっと好きでした。一時の感情などではないのです!!

何とも思ってないのなら、もう優しくしないで。・・・・・困るなら、突き放してください!!」


「エーディン様・・・・・・・・・」

震える彼女を見て、ミデェールは固まった。

ふと、延ばした手に目が行く。

自然と延びた手。

私は、どうするつもりだったのだろうか。

突き放す・・・・・・・・・それとも、抱きしめる?



2つの感情が入り混じる。
そして前には大切な彼女。



























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「・・・・・・・・・・すみません」



ミデェールはその一言を言うのが精一杯であった。

とたんに、エーディンは目を見開き、視線を落す。

手を伸ばしても、受け止めてはくれなかった。
どうしようもない空しさが心の中を駆け巡る。

やはり私を想ってはくれないのね、と思い彼から離れようとした。



その瞬間、ふわり、と抱きしめられた。


「え??」

何?と問うまもなく、エーディンはミデェールの腕の中にいた。

ミデェールは何も言わない。
ただ、ゆるいウェーブのかかったエーディンの髪に顔を埋めているだけだ。
決してきつくはなく、でもしっかりと回された腕は、震えていた。。


「ミデェール??」

慌てたのは、エーディンの方だった。
『すみません』と確かに言った。はっきりと聞いた言葉だ。


恐らく、拒絶の言葉。


なのに、どうして自分は彼に抱きしめられているのだろう。
突き放されると思っていたのに。









***********************************************


「ミデェール??」

耳元で聞こえるのは、心地良い声。
聞きなれた彼女の。
困った声。


「はい」

彼女の髪に顔を埋めたまま、返事をする。


「あ・・・・・あの」

自分から抱きついたくせに、慌てている彼女が可愛らしく思う。
…普段では、絶対にありえない彼女。


気付かないフリをするつもりだった。
彼女の幸せを望むのなら―――


でも、私は―

望んでしまった。―――貴女が側にいてくれる幸せを

抱きつかれた瞬間の甘い誘惑に…


「煽ったは、エーディン様です」

「・・・・・・・・・・」

「先ほどの言葉は、撤回しますか?」

ミデェールは顔をあげて、エーディンと向き合った。
これが引きかえす最後のチャンスです、とばかりにエーディンの目をじっと見る。

「・・・・・・・・・・・・・しません。」

はっきりとその言葉を聞き、ミデェールは微笑んだ。
そして、抑えていた言葉を口にする。


「私も、貴女をお慕いしております。」

きっと、ずっと昔から。

声にならない想いを込めて、ミデェールは抱きしめる腕に力を入れる。
今度は腕は震えていない。
気を抜くと、このことが夢のように消えてしまうのではないかと思った。



「私は、貴女を不幸にするかもしれません。地位も財力もない。それでも・・・・・・・・・」

「いいのです。私は貴方さえいればいい。他には何も望みません」

エーディンは、泣いたせいで目は赤く腫れていたが、十分に美しい微笑を浮べた。

それを見て、ミデェールは更に深く微笑んだ。

ずっと見たかった、彼女の笑顔。
笑顔を守るためなら、なにも厭わない。


抱きしめあい、どちらからともなく重なる唇。

長い間そうしたあと、名残惜しげに離れると、2人は顔を見合わせて微笑んだ。





『ずっと側にいてくれますか?』

『はい』









   ―先には困難が待ち受けているだろう。


    けれど、悔いはありません。貴女を手に入れられたのだから


    謝ったのは、貴女の貴族としての幸せを奪うことに対して。


    代償は、これからの私の人生で払いましょう。






(シスターと騎士・続く)



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懺悔という名の後書き

おわったー。というか、終らせたというか。

煮え切らないミデェールと、押せ押せエーディンみたいになっちゃいました。ごめんなさい×∞

壁紙変えましたー。ハッピーエンドなんで、とりあえず色変え。
紫がなかったので、ピンクも紫のうち!ということで。
花言葉は、『永遠の愛情・不滅の愛』プロポーズの花らしいです。

ちょっとおまけ★


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誤字・脱字などもありましたら指摘頂けると助かります。