■シスターと騎士(2)■










エンバス城の自室に、エーディンは居た。
いつも側に控えているはずのミデェールとは、最近顔をあわせていない。


数日前、言い争いをしてしまった。
シグルドについて行くといったエーディンに、ミデェールが猛反対したためだ。

それ以来、なぜか話しかけずらくて、彼を避けていた。
何か言いたげな顔をしていた彼を見たけれど、いつものように笑える自信がなかったので、気付かないフリをした。



一番側にいたけれど、一番遠い存在。
どんなに望んでも、彼は私を見てはくれない。

「・・・公女じゃなければよかった」

彼が私に笑いかけてくれるのは、『公女』だから。

彼が忠誠を誓ったのは父で、私ではない。

どんなに思っても、彼が思いに答えてくれるはずはないのに。

「・・・・どうしてなの?こんなに好きなのに、想いすら伝えられない」


自分に縁談が来るようになってから、ミデェールの態度はよそよそしくなった。
きっと、この伝えたら、彼は即座に自分の前から姿を消すだろう。
それは確信できる。
幼い頃からずっと一緒にいたために、それは十分にわかっている。




「ミデェール・・・・・・」

何気なく、口に出てしまう想い人の名前。
それと同時に、目から涙が零れてきた。

何度目だろう、彼を想って涙を流すのは・・・・・・・・








コンコン

「エーディン、いる?」

不意にノックの音がして、呼びかけられた。
明るいけれど、何処か遠慮した声色。

「え、ええ。ちょっと待って?」

急いで涙を拭いて、扉へと向かう。
ドアを開くと、エスリンがいた。

「兄上に聞いたわ、軍に残るのね」

部屋に入って一言目に、彼女はそう言った
エーディンはいつものように笑って応える。

「ええ、助けていただいたこともあるし、それに・・・・・・・・・・」

助けてもらったことに対する御礼の気持ち、それも確かにあった。
しかし、もう一つ、エーディンには軍に残る理由があった。

「それに、何?」

「・・・・・・・・・・内緒です」

エスリンは不思議そうに聞き返す。
それを笑って流そうとした。

が、

「当ててみましょうか?」

突然エスリンは真顔になった。
エーディンはそんな状況に驚いて目を見開く。

「え??」

「ミデェール」

「!!!」

「当たりみたいね」

「エスリン」

悪戯が成功した子どものように笑うエスリン。
図星だったエーディンは思わず声を立てて彼女を避難の目で見た。




そう、彼女の護衛であるミデェールは、きっと助けてもらったことに恩を感じ、次の戦いにも参加をするだろう。
前の戦いで、彼が瀕死の重傷を負うところを見たエーディンは心が潰される思いをしたところだ。
今回は運良助かったが、次に同じ事が起こった時に助かるかどうかは解らない。
彼の危機に何も出来なかったたことが歯がゆかった。せっかく回復の術を持っていても、側にいなくては意味がない。
なら、次同じことが起こったときには、自分に出来る精一杯のことができる位置に居たかった。

―ミデェールにとって私が公女でしかなくても。




「ねぇ、最近ミデェールと一緒じゃないのね」

「・・・・・・・・・・・・ええ」

「何かあったの?」

「いいえ、何もないわ」

「・・・・・じゃ、言い方を変えるわね。
最近元気がないのは、ミデェールがらみ?」

「エスリン」

「ふふふ、私を甘く見ないでね。エーディンの気持ちくらいは知ってるつもりよ?」

そう言ってにっこり微笑むエスリンを見て、エーディンは溜息をつく。
そして諦めたように口を開いた。

「本当に、エスリンは察しがいいのね」

「誉め言葉として受け取っておくわ。で、何があったの?」

「・・・・・・・・・何もないわ。ただ、彼にとっての私という存在はお父様の娘でしかなかった、とうことがわかった、といったところかしら。」

「・・・・・・・・・・・エーディン?」

「わかっていたの。
彼は決して私を見てはくれないわ。」

自嘲気味に微笑みながら、エーディンは窓のそとを見る。
そとは晴れ晴れしくに太陽が輝いていた。

「・・・・・・・・そんなことないわよ。」

「いいの、慰めは。」

「エーディン」

「この間、言い争いになったの。ミデェールと。
彼は私にユングヴィに帰るように言ったわ。
『お父様が心配するから』って」

話すうちに、涙が流れてきた。
それは止まることなく、溢れ、頬を濡らしていく。

「いつも2言目にはお父様。態度も、どこか他所他所しい。
・・・・・・・・・・・・私、嫌われてるのかしら」

「そんなことないわ、ミデェールは貴女のことを大切に思ってる。それは見ていてわかるもの!!」

「・・・・・・・・・・」

「どうして伝えないの?ミデェールに。
彼に好きだって言えばいいじゃない」

「・・・・言えないわ。」

「どうして?」

「前に、言おうとしたの。・・・・・・・・・・・・・・・でも言う前にミデェールに誤魔化されたわ」

「・・・・・・・そう、だったの」

「好きというと、きっと彼は困った顔をする。
そして、もう側にはいてくれなくなる」

「エーディン」

「私、彼が傷を負ったときに、何も出来なかったのが辛かった。
もう2度とあんな思いをしたくない。
だから、側にいたいの。何かあった時にいつでも手当てができるように・・・・・。」

「・・・・・・」

「想いが伝わらなくてもいいから、せめてそれくらいはしたいの」

俯いて涙を流すエーディンを、エスリンは黙って抱きしめた。

「・・・微笑を絶やさないだけではなく、心はとっても強い貴女がこんなに泣くなんて」

エスリンは、そう呟いたっきり、黙っていた。












































しばらく経って、エーディンの涙が止まり、落ち着いたのを見計らって、エスリンは帰って行った。

部屋にはまたエーディン一人。

彼女が想うのはただ一人。




  「お父様が心配するからですか?」  

  「私が、戦う術を持ってないからですか?」

  「ユングヴィの公女だからですか!?」

  「役に立たないからですか?」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当はあんなことを聞きたかったのではなかった。

・・・・・・本当は

  『私が公女じゃなかったら、前のように接してくれますか?』

  『貴方を助けたい、と思うのはいけませんか?』

  『私が貴方の側にいたいというのは迷惑ですか?』

でも、それは彼を困らせるだけでしかない。
痛いほどわかっているが故に聞けないことだった。






「ミデェール・・・・・・・・・・・・私は、貴方が好きです」









(シスターと騎士・続く)



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懺悔という名の後書き

・・・・・・・・1から数日後。
エーディンサイドのストーリー。
…構想ねったら、3話完結は無理かも、と思いはじめる今日このごろ。
しかし、今回のは微妙な話だ。
悲恋にしちゃおうか、という気持ちが湧いてきたよ。

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