■公女と騎士■
「エーディン様ー?」
風の穏やかな春の昼下がり、エーディンはユングヴィ城の庭の一角で読書をしていた。
そこへ彼女を探しに来たのは、護衛役のミデェールであった。
「ここです、ミデェール!」
本を読む手を止めて、自分の名を呼ぶミデェールに軽く手を振って合図する。
これはいつのもことであった。
幼い頃、父のリング卿がエーディンの友人にと連れてきたのがミデェールであった。
遊び相手から護衛役へと、成長につれて2人の関係は変化してきた。
エーディンはその儚げな笑顔で人びとを癒すプリーストと言わている。
クランベル貴族の名門・ユングヴィ公爵家の公女として美しく成長し、何処の社交界でも人気の的となっていった。
ミデェールの方はというと、弓の素質をかわれて、護衛の傍らに弓騎士としての訓練にいそしむようになっていった。
誠実な人柄故に、騎士の仲間たちとも仲がよく、その生真面目さをからかわれるなどは日常のことであった。
2人の関係を一言でいうなら、『幼馴染』である。
しかし、この2人は身分が違っていた。
片や貴族の公女、片や一見習騎士。
おのずと生きる道が別れることになるのは避けられない。
美姫と名高いエーディンには結婚の話が次から次へと舞い込んできていた。
幼馴染とはいえ、一騎士見習であるミデェールが側にいることは好ましくない。
とすると、生真面目なミデェールが取った行動はただ1つ。
エーディンとなるべくキョリをおくことだ。
こうして徐々にミデェールはエーディンとの間に距離をおくことになっていったのである。
「やはりこちらでしたか。」
手を振って合図したエーディンのもとへミデェールがやってくる。
「ふふっ。今日は天気が良いから」
「エーディン様はこの場所が好きですね」
「ええ。」
「・・・・・・たしか、初めて私がエーディン様にお会いしたのもここでしたか」
「そうね。あのとき私が本を読んでいると、お父様に連れられて貴方がやってきたわ」
「懐かしいですね」
そう言ってエーディンとミデェールはお互いに笑い合った。
2人を穏やかな雰囲気が包む。
エーディンは、ミデェールに淡い恋心を抱いていた。
姉がいなくなったとき、弟と喧嘩した時、父が出かけて寂しかったとき、いつもミデェールが側にいた。
彼の穏やかな笑顔を見ると安心できた。
「最近は、弓の訓練が忙しいのですか?」
「え?・・・・・・・・・ええ、リング公爵に受けた恩に報いるためにも、もっと腕を磨きたいんです!」
ずっとエーディンの側にいたミデェールであるが、最近では弓の訓練で側にいないことが多い。
これはミデェールが意識的に彼女を避けているからであるが、エーディンには弓の訓練と言い訳をしていた。
「・・・・・・・・・・・・・そうですか。無理はしないでね」
ミデェールがリング卿を敬愛しているのは本当で、公爵の役に立ちたいというのも本心であった。
本音を言えば、ずっと一緒にいて欲しいところであるが、ミデェールの気持ちを知っているため、エーディンはそれ以上我儘を言わない。
ただ、無理をしないようにと言うだけある。
「それより、エーディン様、リング様が探していらっしゃいましたよ」
「お父様が?」
「ええ、広間にいらっしゃいます」
「・・・・・・・・・・・・またかしら?」
父が呼んでいる、それを聞いてエーディンは溜息を漏らす。
「何がですか?」
不思議そうに首を捻るミデェール。
エーディンは困った顔でそれに答えた。
「きっとどこかの公子から夜会へ招待されたんだと思います」
夜会に行くと、必ずと言っていいほど、エーディンに持ち上がる結婚の話。
しかし、彼女はミデェールに想いを寄せているため、誰からの申し込みも断っていた。
「そんなお顔をなさらず、今回は楽しいかもしれませんよ?」
そんなエーディンの心を知らないミデェールは、軽く笑ってそう励ます。
彼にとってエーディンは望んでも手に入らない高嶺の花。
しかも恩ある公爵の大切な娘である。
命を投げ出しても守る人として大切に思っているが、無意識で気に恋愛対象からはずれていた。
・・・・・・・・・・いや、恋心を抱いていたとしても、気付かないようにしていた。
ミデェールの励ましを受け、エーディンの気分は更に沈む。
・・・・・・ミデェールは私なんでなんとも思っていないのね。
心の中でそう呟いたが、それを顔に出すわけには行かなかった。
「・・・・・・・そうね」
落ち込んだ心とは裏腹に、軽く笑顔を浮べてそう返す。
「本をしまってすぐ行きますから、お父様にそう伝えてください」
「解りました。では、失礼します」
そういうと、一礼してミデェールは歩き出した。
その後ろ姿を切なげに見送るエーディン。
「・・・・・・・ミデェール・・・・・・・」
身分が違うのは、他でもないエーディン自身が一番よく解っていた。
彼の一番近くにいた故に、生真面目なミデェールが父に恩を仇で返すようなことは決してしないということも。
「いくら望んでも、ミデェールが私を見てくれる日はこないのですね」
どんなに多くの人からの求婚よりも、彼一人からの方が良い。
どんなに贅沢な暮らしよりも、彼との穏やかな暮らしの方が良い。
―でも、それは望んではいけないことなのですね。
エーディンは空を見上げた。
限りなく青く澄み切った空は、彼女の心とは正反対であった。
グラン暦756年、英雄シグルドの聖戦がはじまる1年前の穏やかな日であった。
この戦乱に、エーディンとミデェールは巻き込まれることとなる。
弓を持って戦うミデェールの傍らには、常に一人のシスターがいたという伝説が語り継がれることとなる。
(公女と騎士・終わり)
懺悔という名の後書き
エーディンとミデェール。
姫と騎士っす。
絶対にエーディンはミデのことを好きだと思う。
ミデェール君は鈍いから、気付いていないのを希望。
そして自分も好きなんだけど、気持ちに気付かないようにしているってかんじかな。
鈍いっていうのは、罪ですよ、ミデ君みたいなお話に思ってくれれば幸いです。
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