■アーサーの誤算(前編)■






とある日、珍しいことにアーサーの機嫌は最高調であった。

彼は数ヶ月前、生き別れになっていた妹と涙の再会を果たし、その妹を周りの男から必死に守る日々を送っていた。
というのも、妹のティニーは兄であるという贔屓の目を抜いても可愛いかったからである。
その儚げな笑顔が解放軍の中で大ヒットし、ティニーに話しかけようと奮闘する者は少なない。
兄であるアーサーは何処の馬の骨かもわからぬ輩に妹は渡せん!と必死で男達とティニーの接触を妨害してきたのである。

そんなティニーに変化が訪れたのは、解放軍に参加してから数日のこと。
誰からみれの一目でわかるティニーの思い人はレンスターの王子であった。
本人はまだ恋であると自覚してはおらず、今の内にと撃退を試みたアーサーであったが、このレンスターの王子は嫌がらせの通じる相手ではなかった。

というのも、ティニーの手前、あからさまに妨害が出来るわけでもなく、間接的に実行して行ったのだが、通じなかった。

レンスターの王子は素直過ぎたのである。

魔法を教えてくれという王子に、これは妨害のチャンス!と思ったアーサーであった。
しかし、ちょっとやそっとのことではリーフは凹まなかった。

アーサーが
『明日までにこの魔道書を読んでこい』
といって手渡したとすると、

リーフは、
『私の為に、わざわざありがとう、がんばるよ!』
と真剣な眼差しで受けとる。

…魔道書といっても、素人が一日で読めるまずも無いような代物であった。
明らかに嫌がらせである。
にも関わらず、リーフはあっさりと受け取り、お礼を言ってのけた。

また別の日に、
『もっと体力を付けたほうがいいんじゃないか?魔法はそんなに甘くないぞ。』
この言葉には、甘やかされた王子になんて無理だ!という意味が込められていたのだが、
リーフは言葉をそのままアーサーからのアドバイスと受け取ったのであった。

なんにしても、アーサーの努力は空回りするだけであった。
最後には少しは人を疑えよ!と突っ込みたくなる衝動を抑える方が大変だと思うアーサーがいた。

いつもそんな調子であるから、当然ティニーの目にもリーフは良いように映る。
アーサーが恨みを込めて特訓をするため、いつもクタクタになるリーフにいつも励ましと労いの言葉を贈るティニー。

…もしかしなくても、アーサーは敵に塩を送っているようなものだった。


が、しかし、今日は少し事情が違った。
リーフが出かけて留守なのだ。


このところ、リーフの相手ばかりしていたアーサーは喜んでティニーのもとへと向かっている、というとこであったのだ。



「このところ、ティニーと出かけるなんてなかったからな。今日は街へ買い物にでも行くか♪」
小さく鼻歌を歌いつつ、アーサーは進んでいく。
傍からみると、小さくスキップをしているようにも見えた。

風の王子でアーサーの周りは春そのもので、もう秋だというのに、アーサーの通ったあとには花がちらほら咲いていた。

―アーサーの周りは時として、彼の気分で季節まで変わってしまうのである。
















「ティニー!街に出かけよう!!」

コンコンとノックした後、ティニーの返事も聞かぬうちにアーサーは扉を開け、妹に呼びかけた。



「お兄様、今日は訓練はお休みなのですか?」

上機嫌な兄に、ティニーは尋ねる。


「ああ、今日はリーフが出かけたからな。兄さんと街へいかないか?」

アーサーの頭では既にティニーと出かける、ということは決定事項で、断られる、という事態は存在していない。そんなアーサーにティニーはにっこり笑って答える。

「ごめんなさい、今日はちょっと用があるんです。」


ティニーとて、兄を尊敬して慕っている。まぁ、過保護の度合いを越えている、というところを除いてだが。
なので兄と出かけるのはまれではない。
行く気満々で、嬉しそうに誘う兄をみて、申し訳ない、と思いながら、ティニーはもう一度謝った。









運命というのは時として非常なもので、アーサーの周りの空気は春の心地良いものから一気にマイナス10度の極寒世界にまで下がったのであった。








それから、どうやって自室に戻ったのか、アーサーの記憶にはなかった。
その日彼を見た人は語る。あの日のアーサーは周りにブリザードをまとっていて、とても近づける状態ではなかった、と。
















そんなアーサーの様子を見て、フィーにはおおよその見当がついていた。
大方、ティニーに振られたのであろう。
彼女はシレジアからここまで、アーサーと供にやって来て彼とは相棒と呼ぶ間柄であった。

その道のりで、彼の妹に対する思いは嫌と言うほど聞かされ、その様子を見ていると、呆れるを通り越してすがすがしいものがあった。

まぁ、ウチのお兄ちゃんとはぜーんっぜん違うけど。

と、何を考えているのか全くわからない兄を思いながらフィーはアーサーのもとへ向かった。
アーサーの機嫌を直すにはティニーに任せるのが一番いいのだが、今回はティニーが出かけてしまったため、どうしたものか、と思いながら。


「アーサー、入るよ」

フィーは返事を待たず、扉を開ける。
案の定、この世の終わりのような顔をしたアーサーが椅子に座っていた。

「もう、何て顔してんのよ!出かけるんでしょ?私が付き合ってあげるから」

「フィーか」

ティニーへの思いがどれだけ深いかを知っているため、フィーはアーサーを放っておけなかったのである。

・・・ホントに世話がやけるんだから。
そう思いつつも、世話を焼く自分に溜息をつきながら、アーサーの腕を引っ張り、街へ出向く。

結局、彼女はアーサーを放って置けないのだ。


















「せっかくのいい天気なんだから、城に居たんじゃもったいないよ」

「フィー、ありがとな」

一生懸命励ましてくれるフィーを見て、アーサーは苦笑を浮べる。
確かに、自分は浮かれすぎていたのだ。ティニーに断られる、という予想が出来ないくらいに。

「よし!じゃあ行こう。当然アーサーの奢りよね?」

「え??」

「いいじゃない、美味しいお店知ってるんだ、私」

「はぁぁ〜〜、負けたよ、」

「やったぁ!じゃ、宜しくね♪」

「…あんまり高いのはダメだよ?」


落ち込んでいるアーサーを励まそうと必死なフィーを見て、まぁたまにはフィーに付き合うのもいいか、と思いアーサーは承諾した。



こうしてアーサーはフィーと町をブラブラして過ごした。




























「もうそろそろ帰ろうか」

「ああ、そうだな。今日はありがとう、フィー」

日も傾きかけ、2人は帰ることにした。
ティニーに断られたのはショックであったが、フィーが励ましたおかげで、アーサーの不機嫌もすっかり治っていた。

「ねぇ。また来ようよ?」

「ああ、そう・・・・・・・」

フィーへの返事を返そうとしたときであった。
アーサーの視界に2人の人物が映る。

言葉を途中で止めたアーサーを見て、何かあったのか?と振り返ったフィーが見たものは・・・
(古今東西お決まりの設定ではあるが)ティニーであった。

しかも、リーフというおまけがついて。



あはっ★逃げなくちゃ!とフィーが振りかえと、ものすごい形相のアーサーが。

いた―のではなく、寂しそうにその姿を見つめるアーサーがいた。


・・・てっきり怒り狂って半径数十キロはブリザード化すると思っていたフィーは呆気にとられる。

―少なくとも、以前同じような状況でアーサーは歩くブリザードと化したのだ。


「アーサー?」


フィーは思わず呼びかけてしまう。
いつもの彼とは全く違った反応であった。

これ以上、声をかけるのは躊躇われた。
こんなアーサーは初めてだ。

冗談を言ってやり過ごせる雰囲気ではなかった。
唖然として立ちつくすフィーを置いて、アーサーは城へと歩みを進めた。


その姿が、あまりにも寂しそうで、フィーは何も言えず、後ろからついて歩いた。


・・・なによ、いつものように怒ればいいじゃない!あんな顔しなくたって。

城に帰ると、アーサーはフィーに一言も言わないまま自室にもどり、その日部屋から出ることはなかった。





(続く)



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懺悔という名の後書き

このシリーズ、4作目です。

シリーズ化してるよ、と自分で思いつつ、アーサーサイドのストーリーになってます。
なんというか、秘密の特訓の続編とでも言いますか・・・。そのように感じていただければ幸いです。


…てか、リーフとティニー出てきてないや。
ちなみに、私的設定ではアーサー×フィーです。
でも、ここではくっついてません。まだ、親友段階。



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