■アーサーの誤算(後編)■






ティニーとリーフを街で見かけた次の日から、アーサーはリーフとティニーの間をあからさまに妨害する、ということをしなくなった。

彼の相棒のフィー曰く、「天変地異の前触れ」だそうだ。
というのもアーサーが歩くブリザード化するどころか、文句の一つも言わずに静かに2人を見つめていたからである。

怒りの一撃を得意とするアーサーであったが、それからはずっと落ち込んだままで、見ている方が切ない気持ちになるほどである。

原因であるティニーとリーフは、アーサーを見て励まそうと様々なことをしたが、どれも空回りに終った。
ティニーがアーサーを町へ連れだそうとしても断り、リーフが特訓の成果を見てくれと言っても、生返事を返すだけであった。

2人は、先日アーサーが見ていたことを知らなかった。
というか、フィーが他人に言うのを躊躇っていたるので、原因をしっているのはフィーだけなのであった。
そんな状況なため、リーフはともかく、ティニーがアーサーをここまで落ち込ませるほどのことをしたはずがない、と皆考えてた。
だから、ティニーにアーサーを元気づけるようにと計らったのであった。


しかしアーサーの心の傷口に塩をぬるようなもので、何の進歩もないままに数日が過ぎた。
























フィーが廊下を歩いていると、ぼんやりと窓を眺めているアーサーを見つけた。

妹馬鹿もここまでくれば表彰モノだと、はじめは呆れていたフィーだったが、ここ数日のアーサーの様子を見ていて、可哀想になり、かげでそっと様子をうかがうことにした。
「考えてみれば、ずっと会いたかった妹に再会したとたん他の男にとられていくんだもの。ちょっと気の毒よね…」

幼い頃からアーサーは母と妹に会うためだけに極寒のシレジアで必死に魔法を習得し、ここまでやってきたのだ。
そうしてやっとマンスターにたどり着くと、既に母のティルテュは死亡し、妹のティニーは叔父に無理やり戦わされていた。
アーサーがティニーを大事にするのもわかる。


・・・けど、どうしてここまで落ち込むのよ!
怒りちらした方がまだマシだわ!!


「・・・・・はぁ・・・・」


ふとアーサーに目を向けると、彼は溜息を漏らした。
そのとき、ちらっとだけ横顔が見えたが、落ち込んでいるというよりは、諦めたという表情にフィーには見えた。



…なんなのよ!、もう。
いつものアーサーに戻って欲しい、こんなアーサーなんて見てられないじゃない!!


「アーサー!!」

フィーは意を決してアーサーに声をかけることにした。


振り返ったアーサーはフィーが近くにいたことに気付いてなかったらしく、驚いていた。


「なっなんだい?フィー」

「・・・・・・・・・・・・・」

アーサーにどんどん文句を言ってやろう、と意気込んていたフィーであったが、実際に彼にじっと見られると、喉がつまった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・あのね・・・・・・・・」

アーサーはじっと見つめ返してくる。
喝を入れてやろうと思っていたが、上手く言葉が出てこない。

「何もないなら、オレもういくから」

そういってアーサーは立ち去ろうとした。

「あっ!・・・・・・・待って。」

フィーは思わず、腕を掴んで引き止めていた。







アーサーは振り返ってフィーを見た。
彼女は何か言いたげで、悲しそうな顔をしている。

「どうしたんだ?フィー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アーサーはもう一度、フィーに問いかける。
しかし、フィーは何も言わない。
沈黙が2人を包む。


アーサーはどうしたものかと考えた。
何か言いたげなフィーを一人残して行くのも気が引けるし、かといって自分からなにか話しかけようなどという気分ではなかった。

・・・ほんとうに、どうしたものか。


皆が自分を心配してくれているのは分かっていた。
しかし、アーサー自信、どうしてこんなに気持ちが沈んでいるのかも分からなかった。
ので、どうしようもない。

きっとフィーも最近のアーサーに対して何か言いたかったのだろう。






数日前、ティニーとリーフが一緒に居るところを見た。
いつもなら、怒りがひしひしと湧いてくるところだが、どうしてだか、怒りがわかなかった。

それが何故だか、アーサーには分からない。
とにかく、虚無感に襲われたのである。

それから、なんとなく何もするきになれなくて、ぼんやりと過ごしていた。

ティニーとリーフのいつもと変わらない態度を見ると、フィーはあのときのことを誰にも言っていないのだろう。
ホントに心配してくれる2人を見て、アーサーはたまらなくなった。
ティニーはそういう優しい子であるのはわかっていたが、リーフには散々嫌がらせをしたのにも関わず、である。
アーサーはここ数日、それで悩んでいたのであった。

・・・なんであんな態度とれるんだ、怒るとかすれば分かり易いのに。

アーサー自身、リーフが仕返しなどをする人物ではないということはわかっていた。
直向に努力を重ねるリーフを見て、アーサーは彼を嫌うどころか、むしろ知らないうちに好感を抱いていた。
しかし、ティニーのことがあったため、それを認めたくはなかったのである。


オレの中で、アイツはティニーをかどわかす悪者でなければならなかったのに・・・・


「・・・オレ、リーフのこと嫌いじゃないかもしれない」


ぼそり、とアーサーは呟いた。
その呟きは誰に聞かせるでもなかったが、フィーにははっきりと聞き取れた。

「アーサー…」


「・・・・・・・・・・いや、なんでもない。」


フィーが目を丸くしてアーサーを見つめている。
アーサーはバツが悪くて、掴まれていた腕を振り払ってその場を後にした。


あとに残されたフィーは、もう引き止めることをせず、ただじっと後ろ姿を見つめていた。






フィーと別れて、アーサーは自室に戻った。
そして一人でさっき何気なく口に出てしまった呟きのことを考えていた。


―オレは、ティニーとリーフを仲良くさせないためにずっとティニーをガードしてきたのに。

そう、アーサーがリーフに魔法の指南をするのは好意からのことではなかった。
少しでも、ティニーに近づけないために引き受けたのであった。

―それなのに、あいつがあんまり一生懸命だから・・・・

どんなに無茶な訓練をしても、黙って教えを請うリーフ。
アーサーが一方的にいじめているのではないか、と言われると、(いや、実際には十分に嫌がらせをしているのだが)
「私が頼んで特訓してもらっているんだ」
と言う。

―どうかしている、あいつがいい奴なんて思うなんて。

まだティニーを手放したくなかったのに。

―あいつだったらティニーを任せてもいいかな、なんて思うなんて。

そう、リーフの側で笑っているティニーを見たとき、アーサーが感じた虚無感は、これだったのだ。
さしずめ娘を嫁に出す父の気持ちとでもいうおうか。


―こんなことなら、特訓なんてするんじゃなかったかな、ははは。

アーサーの思惑とは正反対の結果を生んでしまった。
まさか、自分がリーフに好意的になるとは、考えてもいなかったのだ。
これは、アーサーがこれまでの人生の中で、最大の誤算であったとでもいおうか。





アーサーが軽く笑って、窓の外を見ると、なにやら話しこんでいるティニーとリーフの姿が見えた。

「ま、ティニーが傷つかないなら、それで良しとするか」


そういったアーサーの顔には、笑顔が戻っていた。







この後、ティニーとリーフの邪魔をしようとした者は、アーサーの怒りを買ったかどうか・・・は定かではない。
しかし、この2人を見つめるアーサーの目は優しいものに変わったという。







(アーサーの誤算・終わり)



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懺悔という名の後書き

後編をお届けしました。

アーサーの誤算。前の特訓のを書いてて、このあと機会があったら〜なんて言っていたのを思い出しまして。

50題の途中に、ちょこっと書いて見ました。
関係ないけど、この背景好きですー。


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