■気持ちの行方■
2 心の中の貴方
アルスター城
―レンスター城の南に位地し、最近までクランベル王国・フリージ公家の直轄地であったが、今は解放軍によって奪還され、統治されている。
アルスター城の一室にティニーはいた。解放軍の盟主であるセリスと兄アーサーと共に。
まもなく到着するであろうレンスターの王子リーフを待っていた。
「ティニー、大丈夫かい?」
過保護すぎでは、という顔をしているセリスを一瞥して、アーサーは心配そうに尋ねた。
幼い頃から離ればなれになっていた分アーサーは妹のティニーに対して甘い。とてつもなく過保護なのである。『ティニーの為なら例え火の中水の中』といった様子で、実際にもティニーに近づく男という男に目を光らせている。それは、解放軍の盟主セリスにおいても同じであった。
「大丈夫です、お兄様。これは私のけじめですから。…私はフリージの者です。これは変えることはできません。…それにリーフ王子に確かめたいことも…」
そう、これからのことを考えるといつまでも避けていくことはできないもの。
いつまでもお兄様に頼ってばかりではいけないし…。
…それに…リーフ様ならわかってくれる気がするのです。
ティニーは目を閉じた。自分が解放軍に加わってからそれまで敵同士であったレンスターの王子とは1度も顔を合わせていない。名前が『リーフ』ということくらいしか知識はないが、皆の噂では、礼儀正しい人物であるという。
『リーフ』
それは幼き日、ティニーが会った一人の男の子の名前と同じであった。母と会えない毎日が悲しくて仕寂しくて、一人でこっそり泣いていたときに出会った子だった。
不思議な感じのする少年だったと思い出す。
彼と同じ名前ということで、ティニーはまだ見ぬ王子に少しの期待を抱いていた。
きっとわだかまりを解決して行けるのだ、と。
数分後ノックの音がして、伝令の兵士が入ってきた。
「セリス様、レンスターのリーフ王子およびナンナ殿が到着されました」
「ああ、通して。」
セリスがそういうと、部屋のドアが開いてリーフとナンナが入室した。
「忙しいのに、わざわざ来てくれてありがとう、リーフ王子」
「いえ、私もセリス様とはゆっくりとお話してみたかったですから。で、そちらの方は?」
にこやかに言うセリスにリーフはそう返したが、室内にいるアーサーとティニーを見て目の色が曇った。
…レンスターの者はフリージを良く思っていない…
ティニーの脳裏をその言葉が過ぎった。アーサーとティニーの髪の色を見ればフリージのものだと言うことが誰にでもわかる。それは隠しようのないことだった。
「ああ、アーサーは知ってたんだよね。こちらはティニー。新しい仲間でアーサーの妹なんだけど…」
セリスは言いにくそうに紹介した。フリージ・シルバーの髪の毛を見て、ティニーのことを既に悟っていたのだろうと思われたのだが、名前を聞いてリーフはまた驚いたようだった。
リーフが少し考え込むように目を伏せていると、ティニーが重い口を開いた。
「あ、あの…レンスターのリーフ様でいらっしゃいますね?私、ティニーと申します。…この髪でお解かりでしょうがフリージの者で…ブルーム公の姪です。」
今にも泣き出しそうな気持ちを抑えながら、ティニーは言った。が、依然としてリーフの反応はない。許されることではないのを承知の上、ティニーは謝罪の言葉を続けた。
「アルスターにいたので、フリージが今まで何をしていたかというのは解っています。レンスターの方には本当に…申し訳ないことをいたしました。」
叔父を諌める術がなかったとはいえ、ブルームの庇護の下で生活をしていたティニーにはそれなりの責任があった。その一歩としてレンスターとの問題は重要である。ティニーはどんな仕打ちも耐える覚悟でいた。
ティニーは言葉に詰まって俯いた。隣ではアーサーが心配そうな顔で見守っている。
リーフは黙ったままだった。何も言うこともなく、その沈黙は重かった。
「リーフ王子…フリージに対して良い印象を持っていないのは十分解っているけれど、アーサーとティニーは解放軍の仲間だから、それだけは心に留めておいて欲しいんだ」
セリスは苦笑を浮べ、リーフに諭すようにいった。
「セリス様、言葉では理解できます。でも私たちの、リーフ様のお気持ちも解っていただけないでしょうか?いつまでのとは言いませんが、今すぐにというのはあまりにもっ!」
何も言わないリーフの隣でナンナが講義した。無理も無いことだ。ナンナもリーフと苦労を共にしてきたのだ。幼い時から命を狙われながら、必死に戦ってきた。
フリージはそれだけのことをしてきた。さらに続けようとしたナンナをリーフは無言で制した。
リーフは依然として黙っている。しばらく部屋は沈黙に包まれた。
…………………
「ティニー公女でしたね?」
静寂を静かに破ったのはリーフだった。
「フリージは憎まれているけれど、公子と公女には少なからず民が助けて頂いたときいております。そのことには感謝しております。…しかし、これだけははっきりと言います。私は、まだフリージを憎む気持ちを無くすことはできません。だからもう謝罪は結構です。それよりセリス様、用とはなんですか?」
「なっ!!何だよテメェ、ティニーの気持ちを……!!」
「お兄様、いいですから止めて下さい…」
無表情で興味なさげにそう言ったリーフにアーサーが講義しようとしたところで、今にも泣きそうな顔をしているティニーが止めた。
再び沈黙に包まれるか、というところでセリスが口を開いた。
「ごめん、アーサー。ここは抑えてもらえるかな。で、用なんだけどね。ティニーの紹介と…これら解放軍はトラキアに向かおうと思うんだけど、リーフ王子も来るよね?」
「はい、私たちも参加させていただくつもりです。トラキアはレンスターを狙ってますから、どちらにしても行かなければならないでしょうし。」
解放軍の指揮官の表情になってそう言ったセリスに答えるリーフは先ほどとは違い、真剣であった。トラキアとの問題は国に関わる重要な問題である。
「セリス皇子、俺達はこれで失礼します」
本題に入ったのを見計らってアーサーはムットして、俯いてしまったティニーをティニーを連れて部屋を後にした。
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セリス達のいる部屋から退出した後、自分に当てられて部屋で一人になったティニーは悲しみに耐えきれないで泣いていた。
「…フリージは許されないということは解っていたのに…覚悟はできていたのに。現実を目の当たりにすると…私は至らないですね…」
そしてふと窓から見える森をみて、呟いた
…リーフ…勇気をください。私は…まだあきらめたくはないのです。
懺悔その2
なんかおもいっきり険悪ムードです。ほのぼの系を期待した方、ごめんなさい。
書き直ししてからさらに険悪になっちゃったよ…汗。
後編の予告はあえてしません。では、後編をお読みください。