■恋のはじまり(1)■








朝、ティニーがいつもの様に散歩に出ると、テラスでリーフに会った。

「おはようございます、リーフ様」

彼の姿を目に留めると、にっこりと微笑んで挨拶をする。
振り返ったリーフも、同じように笑みを浮かべて挨拶を返す。

「おはよう、ティニー。いつも早いね。」

朝の清々しい風が二人の間をやさしく吹きぬけた。
ティニーはここ最近、散歩のコースを変えてみたところ、このテラスで朝リーフが佇んでいるのを見つけたのだ。
それから散歩コースにこの場所を加えたのは彼女だけの秘密だ。

彼女はできるだけリーフとの距離を縮めたかったのだ。


彼女は解放軍に入って、友達と呼べる人がたくさんできた。
今までの生活の中では、そう呼べる人はいなかったのだ。

そのなかでもリーフはティニーにとって”特別”であった。
幼いころにであった初めての友であり、今はそれぞれの一族間のわだかまりを解こうとする仲間だから。

―少なくとも、ティニーはそう思っている。

リーフがティニーをどう思っているか、それは彼女にはわからなかったが、
どうやら『嫌ってはいない』ということらしい。


「リーフ様は、朝いつもこちらにいるんですね」

テラスから、外を見つめるリーフの隣に立って、ティニーは尋ねた。

「ああ、このテラスから見える方向に、レンスターがあるんだ」

まっすぐに、レンスターのある方角を見つめてリーフは静かにこたえる。
愛しいものを見つめるように。





「あ、あの。リーフ様はお兄様と特訓をなさっているんですよね?」

しんみりしてしまった空気を和ますように、ティニーは話題を変えた。

「うん。アーサーには世話をかけるけど、彼の魔法の腕は解放軍で飛びぬけているからね」

彼は、今度は彼女のほうへ向き直って答えた。
多少の苦笑をもらしながら・・・。

「皆さんから聞いています。お兄様は、無茶ばっかりするのでしょう??お怪我は大丈夫なのですか?」

そう、兄のアーサーはこれ見よがしにリーフに無茶な特訓をしているようだった。
リーフの生傷は耐えないし、ぼろぼろになって練習場を後にする姿も何度か目撃している。

そんな状態なので、アーサーの妹であるティニーはおろおろしながらリーフの心配をしていたのだ。

「大丈夫だよ。これくらいでくじけていたら”マスターナイト”にはなれないしね」


「・・・・・マスターナイト、ですか」

ティニーは固い決意を籠めたリーフの瞳をじっと見つめた。
あらゆる武器を使いこなす騎士、マスターナイト。
ただ力が強いだけでは駄目で、
その称号を名乗るに相応しい心の強さ、豊かさを兼ね備えなければ認められない。


きっとリーフ様は必死なんだろう、とティニーは思った。
皆に認めてもらえるように、何より自分が自身を持つために。

ティニーにも覚えがある感情だった。
母と引き離され、一人ぼっちだった自分。
誰も自分を見てくれなかった。
必要とされたのは、魔法の素質のみ。
ティニーは自発的にではなかったにせよ、皆に認めてもらえるようにと訓練を欠かさなかった。

―もっとも、彼女の場合はそうするしか生きるすべが無かった、というべきか。


自分とは違うけれど、リーフも必死であるのだろうとティニーは思う。



「辛くなったら言ってくださいね?」

「大丈夫。そんなにやわじゃないよ、私は」

あくまでも明るく、笑って心配かけないようにそういうリーフ。
ティニーもそんな彼の気持ちが解るゆえに、何も言えなかった。


それから、しばらく取り留めの無い話をした後、2人は別れ、ティニーは自室にもどった。

























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その日、いつものように兄のアーサーはリーフと特訓をしていたようだった。



夕方になって、

「疲れたー」

とアーサーが部屋に戻ったのを見て、ティニーはリーフの元へ向かった。

「お兄様がくたくたになってるってことは、リーフ様はもっとお疲れになっているんじゃないかしら?」

傷を受けたなら、自分のライブで癒すことができる、そう思ってティニーの足取りは心なしか早足になっていく。

途中、数人とすれ違ったが、あいまいな笑顔で交わし、リーフの部屋の前まできて足を止めた。

『…もう戻っていらっしゃるわよね?』

そう自分に言い聞かせ、深呼吸をしノックをしようと手を上げたとき、



「リーフ様!!もう、無茶ばっかりなさるんですから!!」




扉から聞こえたその声は、リーフのものではなく、女の声であった。



「ごめんごめん、いつも助かってるよ、ナンナ。」

「そういうなら、少しは自重なさってください」

「うん、それも解ってる。」

「解ってないじゃないですか!!」

「だから・・・ごめんって。」


・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・

とティニーは思った。

手には、ライブの杖を握り締めたままである。

目に浮かぶのはリーフが砕けた態度で接している少女。
ティニーは、彼女も確か回復の杖が使えたということに気づいた。

タイミングを完全に外してしまった。

『私は、この中には入れない』

ちくり、とティニーの胸が痛んだ。

疎外感を感じ、彼女はノックを仕掛けた手を下ろして、足早にその場を去った。
来たときと早足なのは同じであったが、違うのは去るときにはずっと顔を俯けていたということだった。











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部屋に戻ったティニーは、ライブの杖しまうと、力なくベッドへ倒れこんだ。

先ほどの楽しそうなリーフの声が頭に響く。

彼と話していた少女はナンナ。
ノディオンの先王の妹ラケシスの娘で、リーフとはずっと一緒に苦楽をともにしてきた少女である。

リーフとは気心が知れているのは当然であり、彼女が彼の回復を行うのも納得できる。


「リーフ様は、レンスターの王となられる方ですもの、きちんと回復をしてくれる方がいても不自然ではないわ」

―そう、むしろ当然であるといえようか。ティニーなどの手を借りなくてもいいのだ。

そう思うと、無性に悲しくなり、また胸が痛んだ。

そして、何より、自分に対してはどこかよそよそしいリーフの態度も悲しかった。
前から、遠慮しているのだ、とはわかっていたが、こうも自然なリーフを見ると、やはり辛かった。

「・・・・・・・・・・・・どうして、胸がいたむのかしら・・・・・・・・」

ティニーはそうつぶやいて、瞳を閉じた。

明らかに、リーフに対して”ただの友達”とは違うような感情が生まれたのあったが、それが何なのか解らないままにティニーは眠りについた。
















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あとがき

リーティニシリーズ。
本編とでも言いますか、やっとこさ彼らの恋愛・ティニー編です。
申し訳ないのですが、続きます。



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2005.0407

2005.0915加筆